mclean-chanceの「Love Cry」

はてなダイアリーで長年書いてきたブログを移籍させました。生暖かく見守りくださいませ。

ジャズ、最後の巨人の証言。

ハービー・ハンコックハービー・ハンコック自伝』

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モダン・ジャズ最後の巨人と言ってよい、ハンコックの自伝。
 
『マイルス自叙伝』『ウェイン・ショーター伝』と合わせて読むと、更に面白いです。
 
ドナルド・バードマイルス・デイヴィスとまさにジャズのエリート街道を歩き、ソロになっても、セクステット→ムアディシ→ヘッド・ハンターズとコレまた順調だったハンコックの伝記は、破天荒は面白さはないです。
 
しかし、アルバム製作に関して、かなり客観的に自己分析しているのが、ジャズファンとしてはたまらんのでした。
 
また、音楽業界で安定した地位を確立するために、ドナルド・バードがあんなにハンコックを助けていたなんて、知りませんでしたね。
 
私は、ワーナー期のハンコックはちょっと迷走しているというか、ちょっとイキすぎてしまってついていけないんですが、ハンコックとしては、絶好調だったみたいですね。ココは意外でした。
 
コカインの使用を、なんと、『ガーシュイン・ワールド』を使っている頃までやめられず、とうとう、更生施設に入っていたという事実を淡々と語っているのは、かなり衝撃的でありました。
 
チャーリー・パーカーチェット・ベイカーを地獄に落とした、ヘロインにはさすがに手を出さなかったようですが。
 
アメリカの芸能界は、ハンコックのような良識派ですら、麻薬に手を出し出してしまうほど、アッサリと手に入ってしまうところなんですねえ。
 
電子楽器にのめり込んでいる所は、機械オタクぶりが無防備に書かれていて、男の子感が満点。
 
個人的には、スペースシャトルの打ち上げが見られなくて、家に帰っても怒りが収まらないところが、可愛くてよかったです(笑)。
 
ラストに出てくるマイルスのエピソードがとてもよかったなあ。
 
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コレはピカイチに面白かった!

漢 aka Gami『ヒップホップ・ドリーム』

日本のヒップホップにはほとんど疎いのですが、コレは抜群に面白かった。

ダレるところとかつまらないところが全くない。

悪童として生きていた中学、高校からヒップホップにのめり込んでいく過程は言うまでもなく、幼少期の複雑な生い立ち、レーベル社長との抗争などなど、もっと面白おかしく書くことはできたと思うけども、淡々と書いてるのがまたいいんですよ。

ヒップホップに全く興味なくても、充分楽しめる見事な本でした。

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イスラム情勢は複雑怪奇なり。という方へ。

高橋和夫イスラム国の野望』幻冬社新書


本書は「イスラム国」によるジャーナリスト等の殺害事件の直前に刊行されたので、それ以降の動静は書いていません。

が、そういった現在進行中の問題を見ていくための基本的に知っておかなくてはならないことを過不足なく書いており、筆者が「できるだけわかりやすく書いた」と言っている通り、これ以上ないくらいに平易に書かれた著作です。

次々と理解に苦しむ行動をとり続ける「イスラム国」への理解には、まずはこの一冊を読んでみると、日々のニュースへの理解もより深まると思います。

基本的には、英仏による、報復的なオスマン朝の解体が、シリア、イラクという、歴史的に全く根無し草の国家ができてしまったことへの捻じれに無理な力を加えてしまった(具体的にはイラク戦争です)が、この地域が持っている様々な矛盾をわざわざ叩き起こしてしまったことによるものであることが、一番大きな背景であります。

近くは、ヨーロッパ社会から疎外されて、行き場を失った若者たちの不満であります。

そして、イラク戦争後のイラク政権の無能、欧米諸国のシリア内戦への無関心、アラブ富裕層の無責任なテロ組織への援助が、指摘されています。

筆者がトルコのエルドアン大統領を非常に高く評価している点は、特筆すべきでしょう。

また、イラク北部に勢力を持っているクルド人としっかり外交交渉すべきという具体的提案もあります。

テロを云々する前にまずはこれを。

憲法学から論じられた集団的自衛権の書

木村草太『集団的自衛権はなぜ違憲なのか』(晶文社


気鋭の憲法学者による、安保法制に関する、最も平易で内容も充実した論考。

様々な雑誌などに寄稿したものをまとめているので、内容が重複してはいるが、それは筆者が重要と考えているといことだが、一般的にはほとんど論じられることのない、憲法第73条の内閣についての条文から、集団的自衛権を内閣が行使することはできない。ということを論証するくだりが秀逸。

これに対する反論は、是非とも読んでみたいものだ。

最後の市民集会での公演が全体のコンパクトなまとめになっているので、ココから読んでもいいと思う。

集団的自衛権ネッシーにたとえて、コレをあると言ってる人はネッシーがいると言ってるに等しいとする説明は実に明快。

基本は集団的自衛権違憲とする立場だが、そうでない立場の人にも有益な書。

最後の國分功一郎氏との対談はかなり読み応えがありますよ。

あとがきは、安保法制反対デモを行っている人たちと安保法制推進派双方への警鐘。