原恵一『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ! オトナ帝国の逆襲』
オープニング曲のトースティングがなかなか素晴らしいんですけども、コレもまた天才原恵一の名を世に知らしめた名作です!
冒頭に怪獣が大阪万博をソ連館を破壊するシーンが素晴らしい(笑)!!
「20世紀博」。なるイベントが春日部で行われ、野原一家だけでなく、町中の大人がこのイベントの虜になっていきます。
こんなトンデモないものが春日部に(笑)。
しかし、しんちゃんたち子供には、昭和へのノスタルジーなどある筈がなく、なんだかおかしいなあ。と思っているんですね。
そうこうしていると、アナログ盤が流行りだしたり(コレは現在、実際に起こってある現象ですが・笑)、街に旧車が走っていたりと、モーレツな昭和ノスタルジーに街全体が支配されていくんですね。
しかし、コレは、秘密結社「Yesterday Once More」が用意周到に行なっている陰謀だったのです。
この謎の組織のリーダーのケンの世界観はこうです。
ラスボスのケンとチャコ。
「高度経済成長期の日本はとても希望があって輝かしかった。21世紀という未来がとても素晴らしいものに感じられた。しかし、実際の21世紀はなんとつまらないものなのだろう。であるならば、そんなものは消し去って、もう一度高度経済成長の日本に戻してしまおう」
というものです。
なんだか、『エヴァンゲリオン』の碇ゲンドウみたいな事言ってますけども、なんというか、結構オトナたちの痛いところを突いてくるんですけども、コレ、子供にはなんのこっちゃわからんでしょうね(笑)。
子供にとっては、あらゆるものがsomething newなのであって、ノスタルジなど感じる事などないわけですから。
しかも、オトナたちは、ほとんど脳みそレベルで乗っ取られてきているようで、しんちゃんは、この異常さにだんだんと気づいて来るんですね。
ミサエが家事を一切しなくなり、ヒロシが会社に行かなくなるんです。
なんと、ひまわりの面倒をしんちゃんが見るという、異常な事態です。
しかし、おかしいのは野原一家だけではなく、春日部市全体のオトナがおかしくなってしまっているのです!
しかも、春日部だけでなく、どうやら、全国規模でこういう現象が起きているらしい。
なんちゅうか、かなり本格的なディストピアSFをしてるわけなんです。
ちょっと唖然とします。。
オトナのいなくなった春日部では、子供たちによる『マッドマックス』というか、『北斗の拳』というか、その子供版、すなわち、アラン・パーカー『ダウンタウン物語』が展開するんですが、そこで、あの秘密結社は子供たちを「お父さん、お母さんに会えるよ」と言って、車で連れて行ってしまいます。
オトナごっこをするシーン。『ダウンタウン物語』ですね。
しかし、しんちゃんたちはコレを怪しんで、車(コレがオート三輪なのです)に乗りませんでした。
翌日、秘密結社は「子供狩り」を始めるのですが。。
というところまでにしておきましょうか。
この映画、前半はとにかくしんちゃんたちが『マッドマックス 怒りのデスロード』や『ブルースブラザーズ』並みの大活躍をするのですが、後半はヒロシのお話しになっていくんですが、コレが一切言えませんな(笑)。
『怒りのデスロード』に先んじて(?)のなかなかのカーアクション!
こんな風に運転してます(笑)。
ここからがこの映画の真骨頂というか、原恵一の世界ですね。
コレは、一貫した彼の描きたい世界であり、多分、子供映画だと思ってイヤイヤながらきてしまったお父さんたちは涙無くして見る事が出来ないでしょうね。
マルセル・プルーストが生涯をかけて書いた大作『忘れられた時を求めて』では、有名なマドレーヌを食べた時の味から、主人公の「私」が過去を思い出すのですが、この作品は「におい」です。
自分のくつの「におい」から何が大切なのかを思い出すヒロシ。
さあ、野原一家は、秘密結社の野望を打ち砕く事が出来るのでしょうか?
それは見てのお楽しみでございます!
子供にとっての「今」が果たして大切にされているだろうか?という監督のメッセージは、むしろ、現在切実な問題になっているような気がしてならない、大傑作。
ちょっとオトナになるしんのすけを見て、泣けてこないお父さんはいないでしょう!