mclean-chanceの「Love Cry」

はてなダイアリーで長年書いてきたブログを移籍させました。生暖かく見守りくださいませ。

決して昔話ではないのです。

山本直樹『レッド』(講談社

 

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1972年2月あさま山荘事件を起こした、新左翼の一派である連合赤軍の動向を1969年から1971年12月31までを追った作品。

どうしても、あの延々とテレビで生中継された立て篭もり事件を起こした人々として認識されてしまいますが、実際には、そこまでに15人もの死者を出していた事はあまり知られていません。

本作は、彼ら彼女らがいかにして先鋭化して、仲間同士を殺しあう集団になっていったのかを克明に描いた稀有な作品です。

山本直樹は1990年代からマキントシュを使ってマンガを描いているそうですが、その独特なペンタッチのない、情感がこもることを敢えて拒否したような絵柄が、この作品に適度な距離感を与えていて、後半のかなりハードな描写も冷静に描写されていますね。

登場人物が大変多く、淡白に描かれているので(それは作者の意図するところでしょう)、移入しづらいので、少々読みにくいですが、それも読み進めると次第に慣れてきて、キャラクターの性格や特徴も区別できるようになってきます。

まだ、事件に関わって服役中の方もいますので、作中の人物名や党名は全て仮名です。

本作の大きな特徴は、頭に「③」と番号が振られている登場人物が出てくるところです。

作中、一切説明しないので、コレは一体どういうことなのだろう?と読んでいたのですが、1巻の最後の交番襲撃失敗によってのちに連合赤軍として合流することとなる、「革命者同盟」のメンバーが警官に射殺される事でそれがどういう事なのかわかります。

その射殺された若者の頭には、「①」とありました。

つまり、この番号は死んでいく順番なんですね。

最初は身内同士のリンチではなく、警官に射殺されていたという事自体、全く知らなかったのではないでしょうか。

この8巻までで、4人死んでいるのですが、3人は、反逆者として「革命者同盟」の2人が絞殺され、最後の1人は、「総括」が事実上集団リンチにエスカレートした末に死亡してしまいます。

 

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 総括という名のリンチ!

 

 

連合赤軍となっていく過程は、史実よりも簡略化して、「革命者同盟」と「赤色軍」という2つの新左翼セクトが合併した「赤色同盟」として描いています。

東大紛争が日米安保条約の自動延長によって、事実上無意味化し、成田空港建設反対運動などに活動をシフトしていったのですが、その中で武装化するという過激な路線が生まれてきます。

そこで交番を襲撃して拳銃を奪おうとするのですが、コレに失敗し、銃砲店からライフル銃を奪うことにし、コレに成功しました。

また、活動資金を獲得するために銀行強盗なども行うようになります。

これによって警察は、新左翼セクトへの取り締まりに俄然力が入ってしまいます。

こうして、革命者同盟のメンバーたちは、次から次へとアジトを変えながら、全国を逃げ回るハメになってしまいます。

こうして文章に書いてしまうと、とても殺伐としてしまうんですけども、当人たちは案外若者らしく、サークル活動みたいにやっているところがとても興味深いですね。

 

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 部活の合宿のようです。

 

 

それが先鋭化するキッカケとなったのが、拠点を都市部から山間部に移そう。と決めた事からなんですね。

ココで、なんで山荘に立て籠もっていたのか?という伏線が見えてきます。

そして、コレに赤色軍という別のセクトが合流してきて、両者は1つの組織になっていきます。

この、山梨県群馬県の山間部を転々としての軍事教練や党派を1つにしていく上での綱領などを擦り合わせていく過程で、人間関係に亀裂が走ったり、離脱者がではじめます

 

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闘争。と勇ましく行ってますが、やっている事はサークルの合宿みたいな事ですから、自ずとムリがありますよね。

殲滅作戦。という恐ろしげな名前の作戦が出てくるんですけども、コレも奪った数丁の狩猟用のライフル銃で交番を襲撃して警官を殺害するという内容なのですから(計画を立てている途中で車を事故で壊してしまい、できなくなってしまいます)、なんとも。。

 

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ココに至って、身内への引き締めのために、革命者同盟は2名を処刑してしまいます。。

次第に逮捕者も出てくるんですね。

この辺りからどこか牧歌的な話が次第にコワイお話になっていきます。

ココから先は実際に読んでいただきたいですが、10代から20代のごくごく若者たちが、極端で観念的な世界に陥っていったのかの端緒となるところまでを実に丹念に描いているのが、見事であります。

 

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 はじめは単なる悪ふざけでした。

 

 

日米安全保障条約が自動延長した事で、実は大目的を見失ってしまった新左翼の一部が先鋭化して本作のように、様々な事件を起こしていくのですが、この事が若年層から政治を断絶させてしまったのではないのかと思われます。

 

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ほとんど何を言っているのか不明。。

 

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コラコラ(笑)。