渋谷区主催のエリントンのイベントにいく。
2019年は、デューク・エリントンの生誕120周年なんですが(1899年生まれ。誕生日は昭和天皇と同じ。昭和天皇は1901年生まれ。20世紀の始めの年に生まれてます)、なぜか渋谷区がコレを記念して2日間之イベントを行ったんです。
3/4は、ミュージシャンの大友良英さんがエリントンの魅力を語る。というもので、翌3/5は、渋谷毅さんが長年活動している、「エッセンシャル・エリントン」のコンサートという、非常にツボを心得たイベントでした。
エリントン者としては、コレに参上しないわけにはいかず、両日共に楽しんできました。
まずは、大友さんのイベント。
大友良英(画像はすべて当日のものではありません)
前半は、1920-30年代之音源をかけながら、エリントンのユニークさをたどっていくというものでしたが、エリントンが若い頃から、録音でいろんな実験をし続けていた人なんですけども、ミュージシャンとして、大友さんも相当刺激を受けているみたいですね。
と、悠長にやっていると、とても2時間でエリントンが語り尽くせない事が判明してきまして(笑)、後半は、大友さんの現場力が発揮されて、武満徹(武満は、エリントンを大変尊敬していました)、服部良一、ミンガス、マイルス、コルトレインなどをかけながらエリントンを語るという縦横無尽で痛快な内容に変貌しました。
面白かったなあ。
エリントンというミュージシャンはものすごく懐が深いので、こういう事が可能なんですよね。
翌日は、ジャズピアニストの渋谷毅さんが長年活動されている、「エッセンシャル・エリントン」のライヴでした。
エッセンシャル・エリントンはもともと、渋谷さんのピアノにリード奏者の2人にチューバを加えた、かなり変則的な編成なのですが、前半は、ここにアルトサックス/ソプラノサックスの津上研太さんとヴォーカルの清水秀子さんがゲストに参加しての演奏しでしたが、私がより面白く思ったのは、渋谷毅オーケストラのメンバーをゲストも加えて大編成となった後半です。
特に面白かったのは、ゲストに加わった太田惠資のヴァイオリンとヴォーカルです。
エリントンのオーケストラには、ヴァイオリンとトランペットを演奏する、レイ・ナンスという人がかなりの期間在籍していましたが、太田さんの、全くジャズとは関係のないヴォーカルを突然歌い出したのが、ものすごくよかったんですよね。
レイ・ナンス
エリントンの曲は歌うのがとても難しく(キャッチーなくせに歌うには難解なんです)、ジャズヴォーカルの文脈でエリントンを歌って面白いなあ。と、思った事はあまりないのですが、太田さんは、ジャズ畑の人でもない事がよかったのだと思いますが、自由に伸びやかに歌っているのが、とてもエリントン的であり、渋谷さんの意図するところだったのだな。と思いました。
また、彼のとても繊細なヴァイオリンの演奏が渋谷さんのサウンドととても合っていて、今後も共演して欲しいと思いました。
渋谷毅オーケストラ
そして、最後は、メンバーがすべてステージから消えて、渋谷さんだけとなり、ソロピアノが始まったのですが、エリントンの名盤『...and His Mother Called Him Bill』の最後に入っている、「Lotus Bolssom」が演奏されていたのは、ホントに嬉しかったです。
前述のエリントンのアルバムは、エリントンの長年の相棒であり、愛人でもあった、ビリー・ストレイホーンを追悼して作られたものなのですが、この「Lotus Blossom」は、スタジオのミュージシャンたちが片付け始めてから、エリントンが突然演奏を始めたような録音でして、最初はすたのザワザワとした音がかなり入っているのですが(やがて静かになっていきます)、エリントンのピアノの中でも屈指の名演なんです。
渋谷さんは、この演奏をほとんどいじらずにそのまんま淡々と演奏してたんですけども、コレがよかったですねえ。
最後に。
このコンサートのパンフレットには、渋谷さんとジャズ評論家の加藤総夫さんの対談がついているのですが、コレが驚くほど素晴らしいのです。
加藤さんは、80-90年代にかけて『ジャズライフ』などに大変優れた批評を執筆されていたんですが、本業である、脳の研究に専念されてしまい、2冊のまとまった論考を刊行されて以降は、批評活動はパッタリと途絶えてしまったんです。
ですので、加藤さんの文章を読むこと自体、ホントに久しぶりですし、そんな彼がこのイベントに関わっていた事に真底驚きました。
それにしても、これほどのクオリティのイベントを主催した渋谷区は大変素晴らしいですね。
充実した2日間でした。