Gerald Wilson『New York, New Sound』(Mack Avenue)
Personnel;
Clark Terry(flh, tp 2,6),
Jon Faddis(tp 1,2,5,6,8,9 &10),
Frank Greene(tp 3,4 & 7),
Jimmy Owens, Eddie Henderson,
Sean Jones(tp),
Benny Powell, Luis Bonilla,
Dennis Wilson, Douglas Purviance(tb),
Jesse Davis(as), Jerry Dodgion(as, fl),
Jimmy Heath(ts), Frank Wess(ts, fl),
Jay Branford(bs),
Kenny Barron(p 1,2,5,6,8,9 & 10),
Renee Rosnes(p 3,4 & 7),
Anthony Wilson(g),
Oscar Castro-Neves(g 8),
Larry Ridley(b 1,4,6,8 & 10),
Trey Henry(b 5, 7 & 9),
Bob Cranshaw(2,3 & 6),
Lewis Nash(drms 1,5,6,8,9 & 10),
Stix Hooper(drms 2,3,4 & 7),
Gerald Wilson(arr, cond)
Recorded at Clinton Recording Studios, New York, NY in February 2003
プロフェッサーと呼ぶにふさわしい風貌の
ジェラルド・ウィルソンは1940年代から、亡くなる2013年までの長期にわたって、主にビックバンドのリーダー、トランペッター、アレンジャー、コンポーザーとして活躍(エリントン、ベイシーのアレンジも行った事があります)、教育活動にもとても熱心なジャズメンでしたが、日米での評価はかなり開きのある人のような気がします。
大作志向のカマシ・ワシントンは、ジェラルド・ウィルソンの生徒でした。
西海岸を中心にほぼ、ビックバンドを中心とした活動を生涯にわたって行なっていたというキャリアは、とかく、スモールコンボを中心に聴いてきた日本のジャズファンは彼の活動を敬遠しがちですが、実は現在のジャズは大編成のものがとても多く、マリア・シュナイダーや狭間美帆のようなコンポーザー/コンダクターは言うまでもなく、超絶技巧集団のスナーキー・パピーやマルチ・インストゥルメンタリストのジャコブ・コリアー、日本の菊地成孔が主催するDC/PRGやぺぺ・トルメント・アスカラールなどなど、枚挙にいとまがないほど、大編成の優れたジャズのアンサンブルが多いです。
ですので、もはや、ジャズといえば、スモール・コンボでというのは、むしろ、現在ではオールド・スクールな発想でありましょう。
時代の趨勢というものに頓着しないで、自身のサウンドを追求し続けていたジェラルド・ウィルソンは、一時期はかなり活動が停滞していたと思いますが(ビックバンドは維持するのにお金がかかります)、地道な教育活動と弟子たちが有名なジャズメンに成長していった事もあってか、2000年代になって再評価が高まり、マックアヴェニューからコンスタントにアルバムが出るようになりました。
本作はそのような作品の一つです。
参加メンバーには、往年のジャズメンの名前が結構いるのが嬉しいですね。
ジミー・ヒース、ボブ・クランショウ、ジョン・ファディス、ジェリー・ダジオン、そして、クラーク・テリー。
クラーク・テリーもまたビックバンドを率いていた事があります。
クラーク・テリーは1950年代に、短期間ですが、デューク・エリントンのオーケストラに在籍しておりました。
1918年生まれのジェラルド・ウィルソンは録音当時、85歳の高齢ですが、ビックバンドはむしろ若々しく、演奏にはどこにも力みがなく、常に余裕を持って楽器が鳴っています。
特に新しい事はしていないし、びっくりするような所はないんですけども、塩梅の絶妙さがやはり長年ビックバンドやっている人の年季としか言いようがないんですが、オーケストラの音一つひとつがホントに自然に染み渡るんですよね。
個人的には、「Blues for The Count」の後半のアンサンブルの気持ちよさが絶品ですね。
また、派手さはありませんが、「Equinox」のレネイ・ロスネスのソロが素晴らしいですし、ギターソロをフィーチャーした「Teri」の都会の哀愁が見事です。
こういう芸当はやはり、若い人にはできない、ベテランならではのものであって、長年の経験の蓄積からしか、サウンドというものは出来ないという事がよく分かります。
クラシックでも名指揮者と呼ばれる人々のいい仕事はある程度の年齢を過ぎてからがほとんどです。
早熟の天才たちの熾烈な技の競い合いがかつてのジャズでしたけども、それとは相反する事を積み上げてきた事が現在のジャズのアンサンブル重視、サウンド志向を貫いたジェラルド・ウィルソンの晩年の境地を是非お楽しみください。