mclean-chanceの「Love Cry」

はてなダイアリーで長年書いてきたブログを移籍させました。生暖かく見守りくださいませ。

リー・モーガンの遺作!

Lee Morgan『The Last Session』(Blue Note)

 


personnel;

Lee Morgan(tp, flh),

Billy Harper(ts, afl),

Grachan Moncur Ⅲ(tb),

Bobbi Humphrey(fl),

Harold Mabern(p, el-p),

Reggie Workman(b, perc),

Jymie Merritt(b),

Freddie Waits(drms, recorder)

 


recorded at Van Gelder Studios, Englewood Cliffs, New Jersey, September 17-18, 1971

 


内縁の妻にジャズクラブで拳銃で撃たれて死亡した(享年33歳)、リー・モーガンの最後に録音されたリーダー作で、死後の1972年に発売されました。

 

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女性にモテそうなルックスそのまんまの演奏スタイルでした。


すでに、アルフレッド・ライオン経営から退いてからのブルーノートは、どうしても注目されませんが、本作は、あのような悲劇的な死がなければ、更に活躍し続けたであろう事は間違いない事がうかがえる、大変素晴らしい録音です。


私もどちらかと言うと、リー・モーガンは、10代でトランペッターとして完成された早熟の人であり、聴くべきは1950年代。と決め込んでいたところがありました。


実際、メセンジャーズ在籍時のモーガンの凄さは尋常ではなく、クリフォード・ブラウンが確立をした端正なスタイルを継承しつつ、そこに色っぽさや、やんちゃさを加えた、実に魅力的なもので、向かうところ敵なしのトランペットとしか言いようがありません。

 

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ウェイン・ショーターモーガンをフロントとするメセンジャーズは実に素晴らしかったです!

 

麻薬禍がありながらも、アルフレッド・ライオンは、メセンジャーズを脱退した後のモーガンをリーダー作やサイドメンで大量に録音させており、彼のキャリアの録音のほとんどは、ブルーノートに残されていると言っても言い過ぎではありません。


しかし、2017年に日本で公開された、『私が殺したリー・モーガン』というドキュメンタリー映画を見ますと、ラッパ吹きとして優れていても、あんまり作曲とかには興味のなさそうな人に見えたのですが、実際の彼は、ホーンアレンジなどの勉強に熱心で、なんと、後身の指導までしていた事がわかるんですよ。


で、彼の1960年代のアルバムを見ると、モーガンが作曲している、編成の少し大きな録音があるんですよね。


本作もなんと4管のフロントでモーガンと同じくらいに、当時、若手であった、ビリー・ハーパーのとぐろを巻くような黒々としたテナーが盛大にフィーチャーされているので、アルバムの5曲のうち、4曲が10分以上の演奏で、しかも、全曲らメンバーの作曲であり、グループによるサウンドを作っている事をかなり意識しています。

 

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短期間ですが、ビリー・ハーパーもメセンジャーズ出身です。ギル・エヴァンズ・オーケストラでも花形ソロイストでした。


モーガンのトランペットは今更いうまでもなく素晴らしいの一言であり、ここでのモーダルな楽想にもちゃんと適応し、時代に取り残された感は微塵もありません。


コルトレイン以後。のスタイルを自分なりにグループに取り入れ(それが、ハーパーの加入でしょう)、LPの片面いっぱい演奏可能な楽曲、そして、アンサンブルの重視。と、まさに「フュージョン前夜」の条件をほぼ備えているこの演奏は、ゴリゴリのジャズと当時の風潮とのギリギリのせめぎ合いで成立させた苦心作であり、現在でも全く古びたものではありません。


ライオンが目指していた、キッチリとしたプロダクトもちゃんと受け継いでいる、ライオン後のブルーノートとしても考えても、コレは素晴らしいアルバムですし、ジャズファンの盲点になりやすいアルバムがもしれません。


この辺のブルーノートにはまだまだ聴くべきアルバムがあると思います。

 

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コレが現在のハードバップですね。

Mark Lockhart『Dreamers』(Edition Records)

 


Personnel;

Mark Lockhart(ts, ss),

Elliot Galvin(keys),

Tom Herbert(b),

Dave Smith(drms)


recorded at the Fish Factory, London, UK, December 3-5, 2020

 


マーク・ロックハートは、1980年代から活躍するベテランで、ジャンゴ・ベイツ(なぜ日本では未だに知る人ぞ知る存在なのか、全くわからない)のアルバムに参加する他プリファブ・スプラウトレディオヘッド、ハイラマズ、ステレオラブなどのロックバンドのアルバムにもゲスト参加する、非常に柔軟なミュージシャンです。

 

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イギリスでもちゃんと独自のジャズシーンはありました。

 

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なんと、ロックハートは『KID A』に参加しているんです。


私はあまりイギリスのジャズというものをあまり追いかけていないので、このアルバムを聴いたのを期ににわかにWikipediaで彼の事を見てたら、上記の事が書いてあったんですけども(笑)、まあ、要するにですね、彼の事はよくわかってないんですよ。


しかしながら、このアルバムを聴く限りにおいてハッキリと言える事は、ダテに長いキャリアを持っている人ではない、非常に手堅い実力を持っているサックス奏者であるという事ですね。


時折、ソプラノに持ち替えるテナー奏者であり、その意味で、コルトレイン以後のサックス奏者の典型ですが、彼の演奏には、特にコルトレインというものを-テナー習得の際にコピーしたとか、彼の曲を分析したとか、そういう意味ではなく-特に考える必要はないと思われます。


彼の、言いたいことを最低限のフレーズで言い切るというスタイルは、それこそ、ズート・シムズまんまをなぞってはいないですけども、彼の系譜と言えなくもないです。


サイドメンについての言及が全くありませでしたが、このアルバムのユニークさは、通常、ピアニストにあたるプレイヤーがあまりジャズでは用いないような、それこそ、ちょっとストレンジなポップスに使われるような音色を多用するキーボードでして、コレが、あまり多弁ではないテナーに対してかなり饒舌であり、ジャズには珍しいカラフルさを与えているのが面白いです。


音それ自体は、それほど新しいという気はしませんし、個々の要素は驚くような凄さみたいなものは、ないのですが、この組み合わせが妙なクセと言いますか、味わいがあるんですよ。


コレは一体何なのだろうか?と聴きながら考えていて、ふと、行き着いたのが、コレが現在における「ハードバップ」なのだと。


ハードバップとは、ビバップの持つ後は野となれ山となれ的な精神ではなく、もう少しアンサンブルとかアレンジとかソロとソロのつながりの脈絡を考えて演奏する事で、音楽にリラックスや癒しを与えるという、いわば、ビバップをポップ化したもの。と考えてよいと思いますが、このワンホーンカルテットのサックスのベテランの持つ派手さはないが、言いたいことを的確にいうスタイル、ポップな色彩を持つキーボードが、いやが応にも「リラックスと癒し」を感じざるを得ないのです。


このアルバムが優れているのは、この路線が決して、音楽的な後退や阿りから取られているのでなく、あくまでも演奏の質は高く、ダレや慣れというところに陥っていないという事で、コレは案外できそうでできるものではないのですね。


現在のイギリスのジャズシーンは次々と優れた人々が出現し、聴く者を驚かせ続けていますが、こうしたベテランの派手さはないですが、滋味深く、ポップですらあるアルバムが実は作られたていたという事実を知る事は指摘しておく必要があると思います。


ベイスとドラムがやや物足りない気はしましたが、故にハードバップたり得ているとも言えます。

 

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グリフィンの魅力を伝えるライヴ盤!

Johnny Griffin『hush-a-bye』(Black Lion)

 


personnel;


Johnny Griffin(ts),

Kenny Drew(p),

Niels-Henning Ørsted Pedersen(d),

Albert Heath(drms)


recorded at the Monmartre, Jazzhuis, Copenhagen, Denmark,  March 30 & 31, 1967

 


ジャズを聴き始めた頃に一番最初に好きになったテナー奏者がグリフィンでした。

 

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写真でわかるように、グリフィンはそんなに身長がありません。あのものすごい演奏と身長のギャップがすごい人でした。


彼がリーダーであったり、サイドメンに入っているアルバムをよく聴いておりましたが、最初に魅せられたのは、何と言ってもウェス・モンゴメリーというよりもジャズ史上の傑作ライヴアルバム、『フルハウス』を聴いた時でしたね。


このアルバムはとにかくメンバーが全員素晴らしくて、毎日のように聴きまくっていました。


なので、グリフィンはウィントン・ケリーとともに私の最初のアイドルで、この2人を聴くことが私のハードバップ道でしたね。


グリフィンの魅力はその黒々としたテナーの鳴りと、興に乗れば乗るほどにものすごいスピードに吹きまくるのに、ノリがなくならないところがホントに素晴らしいところですね。


ホントに、コレに尽きます。完。


と、ココで終わってしまっては本作の紹介何もしてませんので、もう少し続けますけども(笑)、政治の激動の1960年代はジャズ内部も大変な激変期で、グリフィンのようなバードバッパーはあっという間にオールドスクーラー化し、しかも、大英帝国からのロック勢の侵略により、ジャズ全体がかなりの打撃を受ける事となりました。


グリフィンのような時代に機敏に反応してスタイルを変えたり、一挙にアヴァンギャルド化!のような事ができないタイプのジャズメンは、事実上の引退か、ヨーロッパに活路を求める他ありませんでした。


1960年代のヨーロッパのジャズは一部の天才的な人を除いて、日本同様、まだまだアメリカの模倣の域を出ていませんで、ホンモノのジャズメンがアメリカからやって来る。というのは、ファンにとっても、ジャズメンたちにとっても嬉しい事でした。


ファンはグリフィンのテナーが聴けるわけですし、ジャズメンは共演する事で実地で彼ら彼女らから学ぶ事ができるわけです。


こうして、ヨーロッパでも積極的にこうした動きに反応して、新しいレーベルが立ち上がり、アメリカからやってきたジャズメンの演奏を録音し始めました。


本作はもともと『The Man I Love』というタイトルで出ていたんですが、他のLP2枚『You Leave Me Breathless』『A Night in Tunisia』に入っていた録音をCD2枚にすべて収納し、更に当時未収録だった「The Masquerade is Over」も収録されています。


コペンハーゲンの有名なジャスクラブ「カフェ・モンマルトル」は、当時、ハウスバンドのような形で、ケニー・ドリュー、ニールス=ヘニング・オルステッドペデルセンアルバート・ヒースがいまして、同じメンツでデクスター・ゴードンが、『The Monmartre Collection』というライヴ盤を本作と同じブラック・ライオンから出してます(コレもまた名盤です)。

 

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デックスの名盤、『The Monmartre Collection』!!

 


本作は、先述の事情もあり、オリジナルの曲順がかなり違ってしまっておりますので、オリジナル通りに聴きたい方は、プレイリスト機能を使って、曲順を変える必要がありますけども、さほど大変ではないですよね。


ちなみに、オリジナルは、

 

1.The Man I Love You

2.Hush-A-Bye

3.Blues for Hervey

4.Sophisticated Lady

5.Wee

 

の曲順です。


私がとりわけ好きなのは、最初の二曲で、グリフィンの快調に飛ばしまくる演奏と、黒々とした、グリフィン独特の高音がキューッと鳴り、低音はボオウと響くテナーの魅力がトコトン味わえるところでしょうね。

 

どんなに速く吹いても、フレーズが雑にならないですしお客さんも最高に興奮きているようで、思い切り声が入っています。

 

生で聴いたら、どんなかよかったでしょうねえ。


ケニー・ドリューの吹きまくりテナーを的確にサポートするドリューのピアノが実に素晴らしいですね。

 

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ケニー・ドリューは早くから活動拠点をヨーロッパに移していました。


バップが好きな方で、このアルバムが嫌いになる要素はほとんど皆無であり、要するにジャズファンは必須のアルバムという事になります。

 

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現行のCDのデザインはコレになりますので、ご注意を。

コテコテ、ゴリゴリなジャズがお好きな方にはオススメです!

Horace Parlan『Happy Frame of Mind』(Blue Note)

 


personnel;

Johnny Coles(tp), Booker Ervin(ts),

Grant Green(g), Horace Parlan(p),

Butch Warren(b), Billy Higgins(drms)

 


recorded at Van Gelder Studio, Englewood Clifs, New Jersey, in February 15, 1963

 


本作がこのアルバムのかたちで発表されたのは、なんと、1986年。


要するに、お蔵入りのアルバムであったのだが、またしてもブルーノートの凄さを証明するとんでもないクオリティのアルバムなのでありました。


揃っているメンツの顔ぶれがもう既に素晴らしい。


中音域を丁寧に吹くことに定評のある、ジョニー・コールズに対し、フレーズの語尾がいつもモアンとする、恐らくはテクニック的には問題のある吹き方とおもわれますが、それが特有の表現にまでなっている、ブカ・アーヴィンのテナー。

 

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ジョニー・コールズ。エリントン 、ベイシー、ギル・エヴァンズのすべてに起用されたトランペッターでもねあります。

 

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ブカ・アーヴィン。


そこにギトギトとした味わいのグラント・グリーンのギターと、どこかぎこちなくスムーズに流れないホレス・パーランのピアノのリズムセクションがコレに絡めば、最高に真っ黒いハードバップセッションが聴こえてきますよね、ジャズファンには。

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生前は芳しい評価がされなかった、グラント・グリーン

 

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日本人好みのピアニストである、ホレス・パーラン。


グラント・グリーンを除くこれらのメンバーが全員がミンガスのグループ出身者である事は恐らくは偶然ではなく、ココにブルーノートをある意味代表するグラント・グリーンを絡めようという、実に黒々としたジャズが好きな人たちにはたまらない内容です。


パーランといえば、『Us Three』ばかりが日本では注目されている気がしないではないですが、本作はブルーノートにおけるパーランの傑作の1つと言ってよく、ブルーノート特有のカチッとした構成とアレンジの行き届いたジャズですね。


このアルバムが出なかったのは、多くの未発表音源と同じで、アルバムを出しすぎると、レーベルが赤字になってしまうからなのでしょう。


ブルーノートは、個人事業主が経営する、零細レーベルであり、その録音のほとんどがエンジニアのルディ・ヴァン・ゲルダーのスタジオの録音なのも、自前のスタジオを所有してなかったからです(ヴァン・ゲルダー・スタジオは、様々なレーベルの録音に使われており、決してブルーノートの専属ではないです)。


発売された時のブルーノートはすでに一度大手レーベルに売却された後に、新たな社長を立てて復活したブルーノートであり、恐らくはマイケル・カスクーナの尽力で現在の形として発表されたものと思いますが(もともとは、ブカ・アーヴィン名義で出された2枚組の未発表演奏集のAB面でした)、後にパーラン名義に変わりまして、このタイトルになりました。


ブルーノート特有の、非常にカッチリとした構成と硬質な録音とミンガス組のゴリゴリとした迫力とグリーンのコッテリしたギターが絡む、実にハイカロリーなバップのご馳走です。

 

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エリントン すごいぜ!vol.14の日程決まりました!

エリントン すごいぜ!vol.14

組曲序論

 

コロナ禍もありまして、かなり間伸びして行ってしまいました、コロンビア時代のエリントン、これが最後となります。

 

と、なる予定でしたが、選曲してたら、構想が1つ固まりまして、エリントンの組曲についての序論となりました。

 

名演のオマケをよくよく聴いてますと、コレはやはり組曲というものを想定しつつ録音してしたのではないのか。という事に改めて気がつきまして、急遽、タイトルを変更させていただきました。

 

やはり、実際に音楽を聴きながら内容を決めてい方、思わぬものが見えてくるものです。

 

今回内容は、1960年代に入るための助走ともなりますので、是非是非お越しください!

 

くれぐれもCovid-19 には、お気をつけください。

 

日時 2021.4.30

場所 夜学バーbrat

台東区上野2-4-3 池之端すきやビル3F

(JR御徒町駅東京メトロ上野広小路駅湯島駅など)

http://ozjacky.o.oo7.jp/brat/

open 13:30 start 14:00-16:30
料金 2drinks+800円(お菓子等の持ち込み可。ドリンク類はお店のものを注文してください)

 

covid-19の感染者によって、日程の変更等をせざるを得ない場合がございます。

 

その際は当ブログにてお知らせいたします。

 

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2021年はこんなジャズを聴いてました!

2021年に聴いたジャズ


【新旧マゼマゼです。同不順】

狭間美帆『Imaginary Visions』

Kenny Garrett「Sounds from Ancesters』

Gregory Porter『All Rise』

Hitomi & Edmar Castaneda『Live in Monreal』

R+R=Now『R+R=Now Live』

Charles Lloyd『Dream Weaver』

Charles Mingus『The Black Saint and The Sinner Lady』、『Mingus at Carnegie Hall Delux Edition』

DC/PRG『20 Years Holy Alter War - Mirror Ballism Tour Live』

Fletcher Henderson『A Srudy in Frustration』

Roy Hargrove『Havana』

Huong Thanh & Nguyen Le『Fragile Beauty』

Sam Wikes『Wilkes』

Sam Grendel『Fresh Bread』

Sylvain Luc『Trio Sud』

橋本一子『views』

Gretchen Parlato『Flor』

Dexter Gordon『Clubhouse』

Mark Guiliana『Jersey』

Horace Parlan『No Blues』

Theo Crocker『BLK2LIFE || A FUTURE PAST』

Keith Jarrett, Charie Haden, Paul Motian『Hamburg '72』

 

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『Return to Forever』の準備はココで出来てました!

Circle『Paris-Concert』(ECM)

 


personnel;

Anthony Braxton(as,fl,cl,perc),

Chick Corea(p),

Dave Holland(b,cello),

Barry Altschul(drms, per,whistle)

 


recorded at The Maison de L’O.R.T.F. , Paris on February 21, 1971

 


短命に終わった、「サークル」のフランス放送協会(1974年に廃止。公共放送のラジオ・フランスに改組)でのライヴを収録したアルバム。


サークルは、もともと、チック・コリアデイヴ・ホランドマイルス・デイヴィスのバンドに在籍していた時に意気投合し、ここにドラムのバリー・アルトシュルが加わったトリオでの活動に、マルチリード奏者のアンソニー・ブラクストンが加わった形で成立したのですが、メンバー同士の不和などが原因で活動は一年ほどで終わってしまいます。

 

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もはや説明不要のチック・コリア。生涯現役でした。


後の活動しか知らない人には、ココでのチック・コリアの演奏のハードコアぶりを聴くと驚くでしょうし、あのブラクストンと短期間とはいえ一緒に活動していたというのは、とても興味深いです。


しかし、1969-70年の、過激化していくマイルスのコンボに在籍し、狂ったようにフェンダーローズを弾いていたチックのライヴの様子がマイルスの死後に発表され、よく知られるようになった現在では、ココでの彼の演奏は唐突に過激になったわけではない事がわかります。


が、サークルが発売された頃の日本に於いては、チックのマイルスのもとに在籍していた頃のライヴなど知る由もないですから、このバンドでのありようは、多くのジャズファンには謎だったと思います。


意外にも「Nefertiti」や「No Greater Than Love」が演奏されているので、ブラクストンがいる割には、選曲はエゲつなく厳しくはないので、そんなにビビル事はありません。 


とは言え、この種の音楽を聴こうとしている人には余計な心配かも知れませんが。


このアルバムの聴きどころはCDで言うところの2枚目でLPだとそれぞれ片面に目一杯入っている2つの演奏、「Toy Room-Q & A」、「No Greater Love」です。


いずれも24分、17分を超える演奏なので、それなりの覚悟を持って聴かなくてはなりません。


が、よくよく考えてみると、チックの翌年の大ヒットアルバム、『Return to Forever』もB面目一杯で2つの曲を連続して演奏しているので実は同じだったりする事実が浮かび上がります。


この2つを結びつけて語る言説は余り見られませんし、売上的には全く正反対であろう2枚ですが(ただ、コンサートの観客の声を聞く限りではパリのお客さんは結構来ているように思うので、ヨーロッパでは結構人気あったグループなのかもしれません)、バンドのイニシアチブをチックが完全に握り、ヴォーカルを入れたり、エレピやエレクトリック・ベイスを演奏し、サックス奏者をよりバンドアンサンブル向きに変更すると、実は『Return to Forever』になるではないですか(笑)

 

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説明するのもイヤになる『Return to Forever』。今聴くと意外とハードな演奏である事に驚きます。


コレは聴いていてものすごい発見でしたね。


短命に終わってしまったサークルは後になって聴き返してみると、あの大ヒット作の下準備に結果としてなっていたんですよ。


1967年にフリージャズの指導者的存在として崇拝されていたであろう(当人はそれにどこまで自覚的だったのかがよくわからんですが)、ジョン・コルトレインが亡くなり、音楽的な行き詰まりやマンネリ感も生まれてきたところ、やはり、方法論の見直しなどがそれぞれに行われていたのですが、サークルはバンド名を冠しているだけに、誰かが突出してリーダーシップを取って演奏全体を引っ張るのではなく、全員が民主的にあって、緊迫感と構成力のある演奏をしていく方針が取られています。


この点で、このグループよりも前に結成されている、アート・アンサンブル・オブ・シカゴなども、音楽性こそ違いますが、同じ事が言えますし、キース・ジャレットのあらゆる活動(それは「スタンダード・トリオ」にも及ぶと思います)に見られます。


演奏に於いて終始素晴らしいのは、デイヴ・ホランドの太いのに、ものすごい速弾きな展開もあるベイスであり、彼が演奏の要である事は間違いありません。

 

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今尚現役最高峰のベイシスト、デイヴ・ホランド


もともとがチックとホランドがマイルスのバンドで意気投合したところに、アルトシュルが加わったトリオがこのバンドの核ですので、この3人の演奏になった時の演奏の濃密度は並はずれています。

 

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フリーからオーソドックスな演奏まで幅広くこなす、バリー・アルトシュル。

 


このトリオでのライヴをECMから出してほしかったですね。


傑作スタジオ盤『A.R.C.』はあるのですが。

 

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このアルバムの素晴らしさは既にブログに書きました。


そこにやや異物感を漂わせるアンソニー・ブラクストンが入っているところが良くも悪くも「サークル美」を形成していて、この4人がイザ一斉に演奏すると、ちょっと山下洋輔トリオを思わせるところがあります(特に「73°Kelvin」)。

 

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現在は教育者として、ジャス界に多くの人材を輩出している、アンソニー・ブラクストン。


山下洋輔トリオの、とりわけ第二期と俗に呼ばれる、坂田明山下洋輔、森山威男という日本ジャズ史上にその名を轟かす、恐ろしくキャラの立った3人の演奏はいずれもド派手であり、歌舞伎の荒事のようなカッコいいキメの入る展開を持ちますが、それは「サークル」の目指すところではなく、もっとシリアスで、禁欲的な世界です。


そこが短命に終わった最大の原因のような気もしますが、短命ゆえに美しい演奏であったと言う事は言えると思います。

 

妥協的なアンサンブルではなく、意見のぶつかり合いも辞さない緊迫感は、コレまた短命に終わってしまった、ロックバンドのクリームのような潔さすらあります。


そのグループのライヴをタップリと録音し、発売してくれたECMは当時はまだ、西ドイツの新興レーベルでしたが、ジャズ界に一石投じたいという、マンフレット・アイヒャーの意気込みを感じますね。


2021年に惜しくも亡くなったチック・コリアが、このような演奏をしていた事は忘れてはならないでしょう。

 

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