mclean-chanceの「Love Cry」

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高柳昌行が改めてフリージャズと向き合ったトリオによる演奏!

高柳昌行アングリーウェイブズ『850113』(aketa’s disk→OCTAVE LAB.)

 

 

personnel; 高柳昌行(g),

井野信義(b), 山崎弘(drms)

 

recorded at Seibu City 8 Hall, Hamamatsu, Shizuoka in January 13,1985

 

 

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在りし日の高柳昌行

 


日本のジャズ史の中でもとりわけ異彩を放つ存在であった高柳昌行が、ノイズソロ演奏と並行して行っていた演奏のライヴ録音。

 


1985年の浜松市でのライヴですけども、聴いてすぐわかるのは、アルバート・アイラーの影響ですよね。

 


と言っても、高柳のギターは、アイラーみたいな熱狂は微塵もなく、むしろ、冷え冷えとしているところが、単なるアイラーのモノマネしているわけではないというのがよくわかります。

 


アイラーの演奏を現在聴いてみると、結構、音がスカスカで、全員アコースティックでの演奏ですから、音量もそれほどでもないんです。

 


演奏内容は激越ですけど。

 


で、この「アングリーウェイブズ」と名付けられたトリオも、ギターことエレキですけども、あのスカスカしたところがよく似てます。

 


というか、このトリオがやりたかったのは、多分、そこであったのだろうと思います。

 


一聴、すごいんですけども、音圧で圧倒するんではなくて、絶妙な隙間があります。

 


意外なほど、普通にトリオ全員のソロ回しで演奏が成り立っているので、高柳のアルバムの中でも実はオーソドックスなジャズだったりします。

 


そういう意味では、キース・ジャレットが1980年代に改めてジャズのスタンダード曲に取り組むように、「フリーの古典」である、アイラーに改めて取り組む事で、ジャズというものを考えていたのでしょうか。

 


アルバムの曲目には、「850114 1,2,3,4」としか書かれていませんが、アイラーの曲を演奏しています。

 


どんなに、ノイズに演奏が向かおうと、彼の根底には常にジャズがあったという事でなのでしょう。

 


しかも、それは単なるアメリカのモダンジャズの模倣では飽き足らず、自らの方法論を常に模索していた孤高の存在でありました。

 


その孤高さは、なかなかとっつきにくく、遺された文章もかなりのコワモテであるためか、怖い人のイメージが先行してしまいますけども、実際に習っていた方から話しを聞くと、気さくな方で、大変な博学を駆使した脱線話しが楽しかったのだそうです。

 


高柳がなくなってもう結構な年月が経ってしまいましたが、音楽の強度は今もって揺らぐ事なく屹立しております。

 


決して馴染みやすい音楽ではありませんけども、いきなりノイズソロから入るのはちょっとなあ。という方には案外、この辺から入ってみるのもいいかもしれませんね。

 


若い頃に高柳の門下生で、やがて、関係が悪化してしまって破門宣告されてしまった大友良英さんが、1990年代の終わり頃から、「ニュージャズ・クインテット」というグループを結成して、ギターを弾くようになりましたが、彼がジャズのクインテットを結成するにあたっての根底には、このアングリーウェイブズのトリオがあったものと推測されます。

 


そう言った観点からも本作の重要性はいや増してくるように思います。

 


クインテット(ONJQ)はやがてオーケストラ(ONJO)に発展し、活動を休止しますがリズムセクションのみのトリオ(ONJT)での活動を一時期行なっていましたが、そのレパートリーには、オーネット・コールマンアルバート・アイラーでした。

 

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