mclean-chanceの「Love Cry」

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現在のテナー奏者に多大な影響を与えている、ジョーヘンの名盤!

Joe Henderson『The State of Tenor Live at The Village Vanguard』vol.1,2(Blue Note)

 


Personnel ;

Joe Henderson(ts),

Ron Carter(b), Al Foster(drms)

 


recorded at The Village Vanguard, New York City on November 14, 15 and 16, 1985

 

 

 

新生ブルーノートとともにジョー・ヘンダソンもブルーノートに復帰して2017年現在も存在する老舗ライブハウス「ヴィレッジ・ヴァンガード」(某雑貨店の名前はココから取られています)でのライヴ演奏のアルバムが2枚出ました。


後にCD化されるにあたって、マイケル・カスクーナによってLPでは入りきらなかった演奏をそれぞれ一曲ずつ最後に加わえた二枚組で発売されたりもしましたが、通して聴くにはちょっと長すぎるので、このオリジナルのLPの曲数で充分でしょう。


私はカスクーナの追加曲はカットしてプレイしてます。


テナー、ベイス、ドラムスというシンプルな編成は、「ヴィレッジ・ヴァンガード」の名前をジャズファンに有名にした、ソニー・ロリンズの名盤『Night at Village Vanguard』の編成を意識したのだと思います。

 


コレもブルーノートのアルバムです。

 


60年代にリーダー作やサイドメンとしてかなりの録音をしているジョーヘンですが、この頃の録音を聴くと、彼はものすごくゴリゴリ吹いているように聞こえるんですけども、ココでのライヴ演奏を聴くと、彼のサックスはとても繊細で音も決して大きいとは言えません。

 


実際に聴いた方も「予想以上に音が小さくて驚いた」と言ってますが、録音によってそんなに聴こえ方というのは変わるものなのでしょうか。

 


少なくとも、ココでのジョーヘンのスタイルに近い音を確認できるのは、1970年代の終わり頃なんです。

 


この頃、彼は教育者としての仕事がメインだったようで、録音がとてと少なくて、検証ができないんですどけども、どうもこの辺りで後の繊細なスタイルを作り上げたような気がしてならないんですが。

 


余談はその辺にしまして、本作はジョーヘンがテナーサックス奏者として、類まれな実力を持った人てある事がイヤという程わかるアルバムです。

 


ここまで切り詰めた編成だと、もうサックスが頑張る他なく、聴き手もサックスを聴く事になりますから、要するにコレは途轍もなく力量が問われるわけですね。

 


ロリンズのような天才でないと、なかなか名演というわけにはいきません。

 


事実、このトリオ編成はそんなにたくさんあるわけではなく、ジャズ史に残る名盤レベルだと前述のロリンズとリー・コニッツ『モウション』、オーネット・コールマン『At Golden Circle vol.1』くらいと言ってよいでしょう。

 


本作は、この名盤に加えても何の遜色のない演奏です。

 


とは言え、ジョーヘンの凄さというのは、ロリンズやオーネットのようなわかりやすいものではない事は断っておく必要があります。

 


豪快にして繊細なロリンズのテナーとオーネットのアルトという個性満点とは違って、ジョーヘンの奏法はとても地味でハッタリが一切ありません。

 


ボンヤリ聴いていると、モソモソしているだけに聴こえかねません。

 


彼の個性はその繊細さにあります。

 


恐ろしくコントロールされた音を実に丹念に積み上げて、ゆっくりと上り詰めていくようなソロは、コルトレインのそれのような激越なものではありませんが、遠赤外線でジワジワと温められていくような味わいで、やはりコレはコレで大変な実力がないとできません。

 


この禁欲的なまでに端正なテクニックは、実は現在活躍しているサックス奏者に殊の外影響を与えていて、その代表者がジョー・ロヴァーノやマーク・ターナーと言えるでしょう。

 


彼らのフワフワとした空中を舞うような吹き方は、ジョーヘンを前提としたものと考えられます。

 


その意味で、現在のジャズを解明するための最重要人物の一人一人が、このジョーヘンという事になり、この演奏を聴くことがその理解を進める上で必須なんですね。

 


その意味で、現在のジャズというのは、超個性派が暴れまわっていた時代とは明らかに一線を画してして、とても繊細な世界に入っているという事なんですね。

 


この価値基準を理解しないで、演奏を云々してもそれは的外れとなりかねない可能性があります。

 


と、大幅に話しが脱線している気がしますけども、本作を見事にしているのは、サイドのロン・カーターとアル・フォスターがあったればこそでして、3人の濃密なインプロがすごいタイプの演奏ではないんですけども(とは言え、「The Bead Game」なんかは、かなり獰猛な演奏ですけど)、人数が少なくてスペースが大きい中を実に適切な音数でサポートし、ジョーヘンのソロに注目させるように仕向けているのは、さすがです。

 


Youtubeなどを見ると、このトリオは結構ライヴをやっているようで、どれも相当な水準です。

 


ベイスがチャーリー・ヘイデンになったモントリオールでのライヴがヴァーヴから出てますが、コレまた大変な名演です。

 


ながら聴きではなかなか良さがわからないかも知れませんが、ジックリと聴くと深い感銘のある名盤。

 

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