Andrew Hill『Judgement!』(Blue Note)
personnel;
Bobby Hutcherson(vib),
Andrew Hill(p),
Richard Davis(b),
Elvin Jones(drms),
recorded at Rudy van Gelder Studios, Englewood Cliffs, NJ, January 8, 1964
若い頃のアンドリュー・ヒル。
1960年代のブルーノートを代表するピアニスト/コンポーザーと言えば、ハービー・ハンコックとアンドリュー・ヒルが双璧だと思いますが、ヒルの知名度はその実力に比して、決して高いとは言い難いですね。
セロニアス・モンクから乾いたユーモアを取って、代わりに1960年代的と言ってよいシリアスさを加え、しかも、決してキャッチーとは言い難い作曲をするヒルの音楽は、とっつきやすいものではありません。
しかし、よくよく聴くと妙にクセになってしまう彼の不思議なピアノの魅力はなかなか抗し難いものがあります。
その、「垂直系」と言ってよい、タテを感じさせる、古くはデューク・エリントン、そして、セロニアス・モンク、ハービー・ニコルスと言った系譜にあたるヒルのピアノは、アート・テイタム、オスカー・ピーターソンの「水平系」のピアノの対極ですが、ピアノは他の楽器と比べて音を出した後に音が減衰していくのがとても速い楽器であり、クラシックの奏法はそれをいかに感じさせないように演奏するか。を基本的に発達させていきましたが、ヒルはむしろその減衰していく事を積極的に活かし、より打楽器としての要素を強調していると言えますね。
そんなヒルのかなり初期のアルバムが本作ですが、よく見ると編成がMJQと同じです。
しかし、その印象はMJQのそれのような優雅なものとは全く違う、まるで鍛えあげられた鋼鉄のヒンヤリとしたような手触りのようなジャズでして、その雰囲気を作っているのは、明らかにボビー・ハッチャーソンのヴィブラフォンです。
ボビー・ハッチャーソン。2016年に惜しくも亡くなりました。
ハッチャーソンのサウンドメイカーとしての才能はズバ抜けていて、コレは同じブルーノートのアルバムである、エリック・ドルフィー『Out to Lunch』やジョー・ヘンダーソン『Mode for Joe』と言った名盤でも発揮されていますが、その少ない音数で場の雰囲気を一瞬で変えてしまう演奏は本作でも遺憾なく発揮されています。
そして、なんと言ってもエルヴィン・ジョーンズのドラムの存在感でしょう。
ジョン・コルトレインの音楽に多大な貢献をした、エルヴィン・ジョーンズ。
ヒルの垂直に切断していくようなピアノに対して、ものすごいうねりを伴った、「水平系ドラム)ともいうべき、永遠に永続していくような一人グルーヴ・マシーンのようなドラムは圧倒的であり、ヒルやハッチャーソンと好対象です。
「アルフレッド」(プロデューサーのアルフレッド・ライオンにちなんだ曲名でしょう)でのエルヴィンの重いブラシプレイは必聴です。
コレと全く同じ編成のボビー・ハッチャーソンの名盤「Happenings」と比べても何の遜色もない本作は、ジャズファンには意外と盲点となっているアルバムなのかもしれません。
ヒルの一筋縄ではいかない曲想はクセになります。