mclean-chanceの「Love Cry」

はてなダイアリーで長年書いてきたブログを移籍させました。生暖かく見守りくださいませ。

ポストプロダクションの楽しさにトコトン耽溺した人の実にユニークな音楽ですね。

Sam Gendel『Satin Doll』(nonsuch)

 


personnel;

Sam Gendel(sax),

Gabe Noel(el-b),

Philippe Melanson(el-perc)


recorded at Los Angeles ?

 


コレはたまげましたよ、ホントに(笑)。

 

およそ生の楽器の演奏の音というものがほとんどなく、サム・ゲンデルによるポストプロダクションがふんだんにこらされていて、しかも、それが、なんといいますか、音がダリの絵みたいにグニャグニャしているんですよね(笑)。

 

f:id:mclean_chance:20210214120823j:image

現代の鬼才の一人、サム・ゲンデル。

 


音の加工するソフトというのは今はふんだんにあるので、こういう事を自体はものすごく技巧とかではないと思いますが、こういう音像に仕上げるセンスがすごい。

 

演奏している事よりも音をひたすらパソコンで歪めたりしている事に喜びを見出してしまった人なのでしょうね。


取り上げられている曲はアルバムのタイトルともなっているエリントン曲やコルトレインでおなじみの「Afro Blue」、ミンガスの「Goodbye Pork Pie Hat」、マイルスの「Freddie Freeloader」などに混じって、エルメート・パスコアール「O Ovo」が入っているのも面白いです。


ビートは機械的なビートではなく、エレクトリック楽器を演奏していますが、あくまでも人力演奏であり、人間が出すことの出来る微妙なズレなどを活かしていますね。


その人力がもたらすズレやヨレがパソコンでトコトン加工しようともどこか不思議な温もりのようなものとして残存しているのが面白いですね。


エリントンの「In A Sentimental Mood」がとりわけ素晴らしいです。


エリントンのカヴァーは実は意外と少ないのですが、このカヴァーはエリントンの本質をよく掴み取っていると思います。


この知的な戦略や枠組みを持ちながらも人間の身体感覚の発露との結びつきを大切にするところが、やはり、本作をジャズたらしめていますね。


非常に面白く聴きました。

 

ノンサッチという、アメリカーナを追及しているレーベルが彼のアルバムを出しているのも面白いですね。

 

f:id:mclean_chance:20210214121052j:image