Chick Corea『Return to Forever』(ECM)
Personnel;
Chick Corea(el-p),
Joe Farrell(fl, ss),
Flora Purim(vo, perc),
Stanley Clark(b, el-p),
recorded at A&R Studios, New York City, in February 2&3, 1972
本作を決定づけたのは、アイアート・モレイラとフローラ・プリムの起用であろう。
本作が発売されたのが1972年ですから、2021年時点で49年前のアルバムなのですね。もうそんなになりますか。
よく、「フュージョンの先駆的作品」と紹介される事が多いんですが、それ自体は経済的には間違ってないと思うのですけども、実際の演奏はイメージ以上にゴリゴリであり、それこそ、この前年に発表した『A.R.C』寸前の展開すらあるんですね。
フローラ・プリムの歌をフィーチャーした「What Game Shall We Play Today」は、全体の小休止的な名曲で、コレだけシングルカットできそうなキャッチーな出来映えなので、それがイメージを助長しているのだと思いますが。
本作がそこまで行ってないのは、チックの全体のトータルデザインを考えて演奏している事がとても大きいですし、彼が演奏しているのが、フェンダーローズであるという事があると思います。
この当時、この楽器をここまで効果的に弾きこなす事ができているミュージシャンはちょっと見当たりません。
アンチアメリカの都会、エコの称揚を掲げているであろう、ECMと本作のもつ、まるで南国の澄み渡った青空のような清々しさは、非常にマッチしていたというのもありましたが、そのコンセプトを遥かに超えたポピュラリティとチックの内面にある前衛的な衝動が非常に高次元なところで結実した、とてつもない傑作ですね。
あまりにも売れすぎたので、どこか難癖の一つでもつけたくなりますけども(笑)、文句のつけようのない完璧な作品です。
細かく聴いていると、演奏のミスとか、チックのフェンダーを押さえる音が不必要に入っていたりとかが、あり、そういう辺りが、実はジャズのスタジオ入って一発録りで作っている事を浮き彫りにしていて、むしろ、こんな精巧なものを一発で録音していた事に驚異を覚えてしまうのですが(たったの2日で録音してるんですよね、コレ)。
全体を通じて改めて聴くと感心するのは、アイアート・モレイラのドラムですよね。
モレイラはマイルス・デイヴィスのバンドに参加していたブラジル人ですが、チックは短期間ですけども、彼と一緒に在籍していました。
ブラジル人にしか叩き出せないグルーヴ感は、明らかに全体のイメージを変え、夜のタバコと酒の音楽が、明るい昼間の音楽に変貌させています。
ココに、あの清涼感あふれるチックのフェンダーとフローラ・プリムのヴォーカルが乗っかる心地よさ。
それが時にドンドンとフリー寸前までの興奮にまで突入していく快感。
ジャズというものを明らかに更新してしてしまった傑作と言わざるを得ません。
B面目一杯使った「Sometime Ago〜La Fiesta」は圧巻の一言。
ホントに5人で演奏しているのか?というくらいの奇跡的な演奏を是非とも。
ジャケットも秀逸ですが、写っているのは、実はカモメではありません(笑)。