mclean-chanceの「Love Cry」

はてなダイアリーで長年書いてきたブログを移籍させました。生暖かく見守りくださいませ。

ライル・メイズはエリントンの晩年の組曲を後継しているのしょうね。

Lyle MaysLyle Mays』(Geffin)

 


personnel;

Lyle Mays(p, synth, autoharp),

Marc Johnson(b),

Alejandro N.Acuña(drms),

Bill Frisell(g),

Billy Drewes(as, as),

Nana Vasconcelos(perc)


recorded at The Power Station, NYC and Blue Jay Recording Studio, Carlise, MA, 1985

 


ライル・メイズというと、一般的には、かのパット・メスィーニ・グループのメンバーとして知られているのでしょうけども、寡作ながらソロ作品も作っておりました。

 

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惜しくも2020年に亡くなった、ライル・メイズ

 

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もはや説明不要のパット・メスィーニ。

 


コレはメイズの最初のソロ作品で、メスィーニ・グループがECMからゲフィンのとの契約に移っていたので、ソロ作もそのままゲフィンという大手レーベルから出ることとなりました。


コレを聴いてつくづく思うのは、メイズはメスィーニ・グループの単なるサイドメンなのではなく、このグループのサウンドのかなり重要な部分をメスィーニと共に作り上げている事がよくわかるんですね。


全曲メイズの作曲ですが、アルバムのテイストが、殊の外メスィーニ・グループなんですよね(A面2曲目「テイコ」はちょっとWRっぽいとからがありますけど)?


要するにメスィーニ・グループにおけるメイズの役割は、デューク・エリントンにとってのビリー・ストレイホーンのそれであり、両者の音楽性の見事な絡み合いこそがサウンドの核なのですね。

 

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エリントンとストレイホーン。

 


それは、例えば、スティーリー・ダンドナルド・フェイゲンウォルター・ベッカーのコンビのようにどこからどこまでがどちらの仕事なのか判別できないようなものに近いのだと思います。

 

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至高のアーバン・ミュージック・ユニット、スティーリー・ダンのフェイゲンとベッカー。

 


メイズのピアノの腕前は、本作のB面の一曲目のソロピアノ曲「Mirrors of The Heart」を聴けばわかるように、プレイヤーとして一流なのですが(彼はビル・エヴァンズを大変尊敬していました)、それ以上に重要なのがその作曲能力であり、シンセサイザーによって作り上げられる、驚くほどナチュラルにアクースティック楽器と溶けあってしまう、あのサウンドを作り上げる才能ですよね。

 


本作はメイズにベイスのマーク・ジョンソン、ドラムズのアレックス・アクーニャの、いわば、ピアノトリオ編成に、曲によってゲストを加えるという形で作られていていますが、ギターのフリゼールとベイスのマーク・ジョンソンは「ベイス・デザイアーズ」というグループのメンバーであり、メスィーニやメイズとはまた違った、フォーキーな音楽を追及しているのですが、それがメスィーニとの共演とはちょっと違う側面を見せています。

 

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マーク・ジョンソン。晩年のビル・エヴァンズ・トリオのベイシストでもありました。

 


その事が一番顕著なのが、B面の大半を占める「アラスカ組曲」で、彼の寡黙で繊細な個性が発揮された名曲であると思います。


聴いていると、ECMの作品だと錯覚してしまいそうになります。

 


組曲の最後、「Ascent」ではフリゼールの熱演ギターソロ(!)を聴くことができる点でも、今となっては貴重なアルバムといえます。

 

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若き日のフリゼール。今やジャズ界の巨人の一人です。

 


とかく、パット・メスィーニの陰に隠れてしまいがちですが(恐らく、とても控え目で慎重な人なのでしょう)、メイズという稀代のサウンドクリエイターがいたのだ。という事は特筆すべきだと思います。

 

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