*Wayne Shorter『Phantom Navigator』(Columbia)
Personnel;
Wayne Shorter(ss, ts, lyricon, vo),
Chick Corea(p),
Mitchel Forman(synth),
Stu Goldberg(synth),
Jim Beard(synth),
Jeff Bova(synth),
Alphonso Johnson(el-b),
Gary Willis(el-b),
John Patitucci(el-b),
Tom Brechlein(drms),
Jim Braiower(drms, perc, programming),
Bill Summers(perc, programming),
Scott Roberts(perc, programming),
Ana Maria Shorter(vo),
Gregor Goldberg(vo),
recorded at Madhatter Studio, Los Angeles and Power Station, New York in 1986
今やモダンジャズの最古参の一人となった、ウェイン・ショーター。
ウェイン・ショーターはウェザーリポート末期から解散にかけて立て続けに3つのアルバムを出しましたが、コレはその2作目になります。
ウェザーリポートという、大人気グループのメンバーとしての仕事がメインとなり、しばらくショーターのソロ作品がなかった時期に立て続けに出た形なのですがこの三部作の一つとも言える本作には、実に多くのひとが参加しております。
よく見ますと、現在のショーターのカルテットのベイシスト、ジョン・パティトゥッチが三曲参加してますね。
この頃は、チック・コリアからの紹介なのでしょうかね。
このアルバム、出た時はアンマリ評判よくなかったみたいです。
もしかすると、ウェザーに入る前のショーターの作品、例えば、『スーパー・ノヴァ』とか、『オデッセイ・オヴ・イスカ』のようなハードなものを期待していたんでしょうか、この浮遊感のあるポップな作りが、そんな期待をはぐらかしてしまったのでしょうか。
たしかに、どちらかというと、フュージョンで活躍するミュージシャンの参加も多いです。
基本的にマイルス・デイヴィスのもとを離れてからのショーターの活動は、現在に至るまで、独自のサウンドの追求にあって、サックスのソロでノックアウト的なモノは、実はそんなにないような気がしていまして、本作もポップな作りとはいえ、その事は一貫してます。
多分、モダンジャズの各ジャズメンが凌ぎを削るように演奏で燃えに燃えるというような事を求めていなくて(それはマイルスのクインテットです散々やり尽くしたのでしょう)、もっと、サウンドクリエイトに重点を置きたくなったのでしょうね。
ウェザーへの参加もそういう事なのかもしれません。
とはいえ、ショーターのソプラノもテナーも相変わらず魅惑的で、本作の画竜点睛は、やはり、ショーターです。
とにかく楽しそうに吹いてます。
ウェザーリポート時代の後半は曲が書けなくなって、スランプ状態だった。と後年ショーターは語ってますが、ココでのショーターは、何かサックスの音色からも何か吹っ切れたモノを感じます。
私が特に気に入っているのは三曲目以降で、ジャケットの空に浮かぶ豪華客船のような、ショーターにしか出来ない、浮遊感に満ち満ちた、不思議な魅力を放っております。
ベイスやドラム、キーボード、シンセサイザーの音が如何にも80年代後半しているのですが、使用している機材がかなり似通っているのか、この頃の細野晴臣にちょっと似ている気がします。
ショーターがYMOからソロ作を聴いていたとは到底思えませんが(いや、案外聴いてたりして)、この頃の2人の頭の中で鳴っていた音が偶然にも一致していたのでしょう。
このアルバムに横溢する、「拡散する音楽」は、ともすると単なる散漫でまとまりのない作品になってしまいがちですが、本作はシッカリと筋が一本通っています。
一聴したポップで軽い印象よりも、実際はかなり練り上げられた音楽だと思いました。
もう、発売されて30年ほど経ちますが、今聴いても気持ちよく聴くことができます。オススメ。