Al Foster『Mixed Roots』(columbia)
personnel;
Micheal Brecker(ts, ss),
Bob Mintzer(ss), Sam Morrison(ss),
Jim Clouse(as,fl),
Paul Metzke(g),
Kikuchi Masabumi(el-p,org,p),
Teo Masero(el-p),
Jeff Berlin(el-b), T.M. Stevens(el-b),
Ron McClure(b),
Al Foster(drms)
recorded at CBS 30th Studios, Manhattan, New York, 1977
今なお現役で活躍する、アル・フォスター。ドラムセットが個性的な人でもあります。
残念ながら、録音の詳しいデータが記載されておりませんが、パーソネルを見る限り。セッションによってメンバーが変わっているので、結構な日数をかけ、コロンビアの名門スタジオ、「30番通りスタジオ」で録音しているものと思います。
アル・フォスターのキャリアで最初に脚光を浴びることになったものは、なんといっても、70年代の、いわゆる「エレクトリック期マイルス」のメンバーとして起用された事ですね。
帝王マイルスのズル休みを前後して参加したミュージシャンはアル・フォスターだけです。
1975–80年にマイルスの健康上の問題を理由とした長期休業(実のところの理由は本人も『よくわからない』と言ってますが)の後、突然復帰した際も、フォスターはまたしてもマイルスに招集されてますけども(レギュラーメンバーとして1985何まで在籍)、本作はそのマイルスが隠遁生活の頃に録音された作品で、アル・フォスターの初リーダーアルバムです。
マイルスが事実上隠遁して、アルバムを作成しようとしないので、プロデューサーであるテオ・マセロはコロンビアから「マイルスが仕事しないのなら、他のヤツをリーダーにしてアルバム作れ!激おこ!」と言われたのかどうか知りませんが(笑)、アル・フォスターに声をかけ、相当なメンツを揃えたアルバムが作成されました。
エレクトリック・マイルス期のアルバム製作に多大な貢献をした、テオ・マセロ。
セッションによってメンバーが変わりますけども、核となっているメンバーによって音楽性が決まっておりまして、マイケル・ブレッカーがテナーとソプラノで参加し、ものすごいソロを取っています。
2007年に惜しくも亡くなった、当代きってのテクニシャンであった、マイケル・ブレッカー。
他にも3名のサックス、フルートが参加していますが、ブレッカーのソロが群を抜いて素晴らしいです。
当時のブレッカーは、どちらかというと、優秀なスタジオ・ミュージシャンであり、兄のランディとともにフュージョンの大スター。という評価するだったと思いますが、ここでの彼のサックスは、とにかく吹きまくり放題でして、ジャズプレイヤーとして全開であります。
ある意味、本作の事実上の主役は彼と言ってよいと思います。
そんなにソロを取っているわけではないんですが、サイドギターとしてサウンドを決定づけている、ポール・メッケの粘り気のあるギターは素晴らしいです。
また、当時、ギル・エヴァンス・オーケストラのメンバーとして大活躍していた菊地雅章は、決して派手ではありませんが、フェンダーローズやオルガンなどのキーボード楽器を多彩に駆使してフロントを的確にサポートしつつ、いざとなると素晴らしいピアノソロを「Pauletta」であの唸り声とともに捻り出しています。
菊地雅章の出現はまさに驚異的でした。
リーダーのアル・フォスターのドラム、エレクトリック・ギターとベイスによって作られる、粘っこくファンキーなサウンドを実にまとめ上げ、ブレッカーの圧倒なソロを支えます。
要するに、このアルバム、かなりファンク、ロック寄りの熱血サウンドのジャズでして、そういう意味では1970年代のマイルスサウンドの延長線上にあり、テオもマイルス不在の穴を埋めるためにプロデューサーとして参加し、恐らくはアルバムの方向性やさんがメンバーも彼によるものだったのかもしれません。
というか、テオはこのメンバーでマイルスとアルバムを作りたかったのかもしれません。
「王の不在」は一方ではハービー・ハンコックやウェイン・ショーターら、1960年代のクインテットのメンバーが中心となって結成された「VSOP」の結成を促しましたが、1970年代のメンバーにマイルスの親友であったギル・エヴァンするの片腕的存在であった菊地雅章も協力し、このアル・フォスターの初リーダー作(しかして内実はマイケル・ブレッカーのアルバムですが)が作られた事は、意外と知られていません。
アル・フォスターは1970-80年代のマイルスのバンドのメンバーでありながら、実はこういう音楽があまり好きではなかったらしいのです。
しかし、「あのマイルスと共演できる」という事を最優先して、彼の意図を尊重して、エレクトリックでファンキーなサウンドに貢献していました。
自身のソロアルバムならば、ドラムソロをどこかに盛大に入れてもよいようなものなのに、いいところの大半はマイケル・ブレッカーにやらせているというのは、そういう事情もあるのかもしれません。
私個人は、ジャズアルバムで盛大にドラムソロが入っているのは、そんなによいと思った事がないので(ライヴでやる分には楽しいのですけども)、この判断は結果として正しいと思いますけども。
こういう事情もあり、素晴らしい内容であったにも関わらず、リーダーであるアル・フォスターがあまりやりたくない仕事であった事もあってか、CDの時代になってもあまり積極的に市場に出回っていなかった事であまり知られてこなかったようです。
本人の気持ちがどうあれ、内容は大変素晴らしいですし、アル・フォスターの演奏は私にはこういうサウンドにとても向いていると思うので、ジャズファンとしては大いに推薦したいと思います。
最後の曲に数少ないテオ・マセロのフェンダーローズの演奏が入っているのも注目すべきでしょう。
本作もマイルスを担ぎ出そうとする意図があったアルバムなのかもしれません。