mclean-chanceの「Love Cry」

はてなダイアリーで長年書いてきたブログを移籍させました。生暖かく見守りくださいませ。

ネルソン・リドル三部作(シナトラじゃないよ)!

Linda Ronstadt with Nelson Riddle & His Orchestra

『What’s New』『Lush Life

『For Sentimental Reasons』 (Asylum)

 

 

Personnel;

多すぎるため、すべて割愛(笑)


Recorded at The Complex, Los Angeles, in June 30, 1982-March 4, 1983(What’s New)

August 24, 1984-October 5, 1984(Lush Life)

1985-86(For Sentimental Reasons)

 

 

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若き日のリンダ・ロンシュタット現在はパーキンソン病を患っており、事実上引退状態です。

 


リンダ・ロンシュタットと名アレンジャー、指揮者であった、ネルソン・リドルが1980年代に、突如、3枚のジャズアルバムを作成しました。


正確にいうと、ネルソン・リドルは3作目の制作途中の1985年10月6日に亡くなってしまい、残りの三曲(アルバムの7-9曲)の録音はテリー・ウッドソンが指揮してします。


つまり、この3部作はネルソン・リドルの遺作となってしまいました。

 

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ネルソン・リドルといえば、キャピトル時代のシナトラとの仕事が重要です。キャピトルはロックのレーベルではなかったんですね。

 


ロックファンがこのアルバムをどのように受けとめたのかは寡聞にして知りませんが、セールスはジャズアルバムとして考えると驚異的なセールスを上げました。


何しろ3作ともにビルボードBest100にチャートインどころか、第一作『What’s New』は最高位第3位です。


恐らくは普段ロックを聴いていないような層にもアピールした結果なのでしょう。


ジャズというものの、アメリカの受け止め方が海外に住んでいるとかなり違っているのを痛感しますね。


リンダ・ロンシュタットは別に「ジャズに挑む」みたいな姿勢でこの三部作を作るというよりも、アメリカン・クラシックスに改めて挑んだ。という気持ちなのでしょう。


似ているとすると、美空ひばり弘田三枝子がジャズアルバムを出したような感じに近いのだと思います。

 

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なんと、ネルソン・リドル・オーケストラをバックにジャズを歌うというアルバムがあるのです!

 

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1966年のニューポートジャズ祭に参加(!)直後、ニューヨークで録音された、弘田三枝子のジャズアルバム。

 

 

ロックやニューミュージックを中心に音楽を聴いているとつい見逃してしまいますが、アメリカのポピュラーミュージックや戦前戦後の流行歌、歌謡曲のバックを演奏している人々の多くは、ジャズミュージシャンが多かったんですね。


原信夫や前田憲男は歌謡曲の世界で活躍するしてますけども、2人ともジャズミュージシャンです。

 

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ジャズは日本のポピュラー音楽の背骨でした。

 


お笑いの世界での功績が大きすぎてつい忘れてしまいますけども、クレイジーキャッツもジャズコンボですね。


植木等のあの粋なヴォーカルはジャズで身につけたものです。

 

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ハナ肇クレイジーキャッツ

 


戦前ですと多くの流行歌を生み出した服部良一がまさにそうでしたし、その息子の服部克久も戦後日本を代表するアレンジャーでした(2020年に惜しくもなくなりました)。

 

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服部良一、克久親子が日本のポピュラー音楽に遺した功績は余りにも絶大です。

 


コレはアメリカでも事情は同じで(というか、アメリカの強い影響で日本もそうだったんですけどもう)、フランク・シナトラの最初の黄金期であるキャピトル時代は、ネルソン・リドルとのコンビによって生み出されました。


シナトラはポップスシンガーですが、非常にジャズのテイストを持っている人で、その境界線がとても曖昧です。

 

ウェストコーストのロックシンガーの代表格であったリンダ・ロンシュタットが改めて自身の足元にあった、ポップス・クラシックの世界を見直した時、白羽の矢が当たったのが、すでに大御所であったネルソン・リドルでした。


このアルバムが制作された詳しい舞台裏には特に興味はありませんが、このアルバムの魅力あるのものにしているのは、リンダが別段ジャズヴォーカルに寄せて歌っていない事ですね。


それをやってしまうと、恐らくですが、ウソ臭くなるのが目には見えてます。


ただ、誠実にジャズのスタンダードをいつものように歌っている事が最大の成功要因です。


それが奇しくもジャズヴォーカルというものの領域を広げる結果となった。という事が素晴らしいのだと思います。


巨匠ネルソン・リドルの仕事は悪かろうはずなとなく、聴き手を1950年代のアメリカにそのまま誘ってしまいます。


しかし、そこにリンダのヴォーカルが乗っかってくるので、単なるノスタルジーやレトロ趣味になっていないところが見事です。


現在、ジャズが改めて注目され、続々と新しいミュージシャンが輩出されますが、これらの動きの中で注目されるのは、意外にもヴォーカルの存在です。


それは必ずしも従来のような歌だけではなく、ラップであったり、ヴォイスと呼ぶべきものである事も多いわけですが、ヴォーカルを入れる事でジャズという、ある意味、テクスチャが高度化しすぎて、身動きが取れなくなってしまっているジャンルに風通しをよくしているのではないかと思うのです。


本作はロックスターがフルオケを起用してスタンダードを歌う。という、ある意味でニッチなところを突いたら見事に大当たりした。という事ではあると思うんですけども、その射程は意外にも21世紀のジャズの変革まで射抜いてしまっているような気がするんですね。


グレゴリー・ポーターがインタビューでナット・キング・コールへの深い愛を語っていて、それは実際に作品集という形に結実しましたが、この原形は案外この三部作にあるのではと思ったります。

 

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グレゴリー・ポーターによるナット・キング・コール作品集。もう少し機が熟してから出すべきだった気はします。

 


全作とも甲乙つけがたく、すべて揃える事をオススメします。

 

残念ながら、入手が次第に難しくなってきているので、お急ぎを。


この三部作は、『Round Midnight』という形でコンピレーションになって発売されて、大変便利だったのですが、現在は廃盤で入手困難です。

 

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