mclean-chanceの「Love Cry」

はてなダイアリーで長年書いてきたブログを移籍させました。生暖かく見守りくださいませ。

こういうグループをもっといろいろ聴いてみたかったです。

Keith Jarrett『Personal Mountains』(ECM)

 

 

Personnel;

Jan Garbarek(ts, ss),

Keith Jarrett(p, perc),

Palle Danielsson(b),

Jon Christensen(drms)


Recorded at Kosei Nenkin Hall, Shinjuku,Tokyo in April 2, 1979

 

 

1970年代に活動していた、キース・ジャレットによる、いわゆる「ヨーロッパ・カルテット」による、1979年の日本ツアーから、新宿の厚生年金ホールでのライブが、なぜか、1989年になってから唐突に発売されたものです。


この年のライヴはキースにとって思い出深かったのか、コレまた思い出したように、4月16日の中野サンプラザでのライヴが『Sleeper』というタイトルでCD2枚組の大ボリュームで2012年に発売されました。


キースのライヴ盤はしばしばこういう事が多いですけども、その先駆けが本作と言えるでしょうか。


特にこのカルテットは結成も解散も宣言されていないですし、自ら「ヨーロピアン・カルテット」と名乗ったこともありません。

 

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若き日のキース。


コレに対をなす、「アメリカン・カルテット」も同じで、しかもこっちは厳密にいうと、編成が多少変わるので、カルテットとは言い難く、こちらも結成も解散も特にありません。


このカルテットは主にキース・ジャレットの曲をキース以外は、ECMに縁の深い北欧のジャズメン(北欧というのは、ECMの重要な要です)による、ワンホーンカルテットで演奏するというものです。


アメリカン〜」と比べてスタジオアルバムはわずか2枚と少なく、その代わりにライヴ盤が本作を加えて3枚あり、すべて1979年のライヴで、『Nude Ant』のみ、ほぼタイムリーに発売されてます。


聴かせどころは実はキースのピアノよりもヤン・ガルバレクの、クリスタルでできたサキソフォンから音が出ているような透明で冷気が伝わってくるサックスでして、キースはどちらかというと、バンマスに徹しているグループですね。

 

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ヤン・ガルバレクのサックスが聴かせどころです。


なので、キースのピアノを聴くという事に主眼のある人には、やや物足りないかもしれませんが、キースの作編曲能力、バンマスとしての能力の高さは、後にはあまり聴けなくなってしまうので、とても貴重です。


私はヨーロピアン・カルテットのスタジオ盤はそんなに面白く聴いた覚えがないんですけども、このライヴは実に素晴らしいですね。


一曲を長いと30分ほどかけて演奏するスタイルのコンセプトのようなので、当時はLPという媒体の限界もあり、スタジオではなかなか表現しにくいグループだったのかもしれません。


もともとガルバレクは当時の欧州のジャズメンによく見られる、コルトレイン・フォロワーとして、シーンに登場しましたが、北欧を訪れたドン・チェリージョージ・ラッセルとの交流により、アメリカのジャズの吸収よりも、自らのルーツに忠実な表現への意向していき、それが彼の現在までの作風の原点となりました。

 

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実は欧州や日本のジャズに多大な影響を与えている、ドン・チェリー


実は、キースは現在でこそモダンジャズの巨匠のようなポジションになってしまっていますが、70年代は、それぞれの民族的ルーツとジャズを積極的に混淆してくような動きにかなり積極的でして、それが彼の作編曲とも結びつき、アメリカ人を中心とした、今では「アメリカーナ」と呼ばれるようなジャズを追及するグループと、ドン・チェリーなどに感化された北欧ジャズメン達との、後にアンリ・テキシエなどが追及していくようなジャズを演奏するカルテットを同時進行的に行いながら、更にソロピアノも行うという、実に多面的で多層的なジャズメンでした。


それは、フリージャズが音楽的に転換し、世界各地で独自の発展を遂げていく時期と相関関係にあり、当時のキースははるかに「フリー」の住人でした。


作編曲中心のグループと言っても、ココで演奏される曲は実はスタジオ録音されたものではなく、すべて新曲で、つまり、当時、日本でこのライヴを見た人たちは初めて聴く曲だったはずです。


にもかかわらず、ココでのライヴは、ずいぶんこなれた演奏のように聴こえ、このカルテットの演奏能力の高さに唖然としてしまいます。


キースの曲は取り立てて北欧寄りに作曲しているわけではなく、当時のキースの鍵盤をこねくり回したようなメロディが際立つ、あのキース印の曲ですけども、北欧のジャズメンが演奏すると、コレほどまでにヒンヤリとした手触りになるのもなのか。と驚く次第です。

 

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パレ・ダニエルソン


ユニークなのは、ヤン・クリステンセンのドラムで、いわゆるシンバルを刻む事を基本とする、モダンジャズが確立したドラミングではなく、スネアなどの太鼓を基本とした、独自のドラミングで敢えて叩き、そこにガルバレクがコレまたソプラノサックスをあたかも民族楽器のように吹き、キースがピアノを弾かずにパーカッションでガルバレクを煽りまくる展開が「oasis」という曲の後半に出てくるのところが全体の白眉ではないかと思います。

 

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ヨン・クリステンセンは2020年に亡くなりました。ヨーロッパきっての名ドラマーでした。

 


キース・ジャレットの、ドン・チェリーへの解答のようなものにも思える大変な名演ですけども、コレは、ライヴで行った方が面白いですね。


コレほどのクオリティならば、すぐにアルバムとして発表しても良かった気がしないでもないですが。


スタンダードトリオしか聴いた事のない人には、是非ともオススメしたい傑作です。

 

 

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