mclean-chanceの「Love Cry」

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キースの1970年代の総決算的な傑作!

Keith Jarrett『Survivors’ Suite』(ECM)

 


personnel;

Dewey Redmam(ts, perc),

Keith Jerrett(p, ss, bass recorder, celeste, osi drums),

Charlie Haden(b),

Paul Motian(drms, perc)

 


recorded at Tonstudio Bauer, Ludwigsburg, Germany,

April 1976

 


アメリカン・カルテットの最終作は、なんと、LP両面にわたるタイトル曲のみという大作組曲です。


キースの演奏するベイス・リコーダーに、デューイ・レッドマンとポール・モーシャンのパーカッション、チャーリー・ヘイデンのベイスが絡む、何やらどこかの民族音楽のような冒頭は、やがて、ベイス・リコーダーのオーバーダビングまで駆使して、ソプラノサックスとテナーサックスによるテーマ、テナーとピアノによるテナーに漸次移っていくことで次第にジャズになっていくのですが、スタンダード・トリオしか聴いた事のない方にはこの展開は驚いてしまうかもしれません。


しかし、キースには、マルチ楽器奏者としての側面と、それをダビングしてアルバムを作ってしまうという、その後の彼からはほとんど見られなくなってしまうのですが、本作はそれを最も駆使した、サウンドクリエイターとしてのキースの才能が最大限に発揮されたアルバムです。

 

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キースが様々な楽器を演奏するミュージシャンである側面は無視できないと思います。

 


俗に「アメリカン・カルテット」と呼ばれますが、実際には、ギターやパーカッションが加入する録音が多いので、この呼び方はあまり適切ではありませんが、1960年代末から1970年代初頭に活動していた、キースとチャーリー・ヘイデン、ポール・モーシャンによるトリオが核となって結成されたグループである事は間違いありません。

 

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キース、ヘイデン、モーシャンのトリオがこのグループの核ですので、かなりアメリカーナ寄りですね。

 


本作はカルテット編成ですが、オーバーダビングをかなり駆使していますので、ココでの演奏は最早、ライヴで演奏するには、かなり困難です。

 

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チャーリー・ヘイデンもまた、キースとは違う自由な活動をしていたミュージシャンでした。

 


このアルバムの発想には私は前段階があると思ってまして、それは、1960年代のジョン・コルトレインのカルテットの末期に作られた、『至上の愛』や『トランジション』のような大作志向と、それをより、バンドサウンドとして再構築した、アート・アンサンブル・オブ・シカゴを前提としていると思います。

 

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AEOCの、メンバーが有機的に自由闊達なアンサンブルを行うところはこのキースのグループに多大な影響を与えたのではないか。

 


しかし、ほとんどロックの録音のようにダビングする事を前提としたような作り方というのは、当時は、マイルス・デイヴィスの大作『ビッチェズ・ブルー』くらいしかなく、しかしながら、とりわけ後半冒頭はほとんどセシル・テイラーを思わせるようなフリージャズのような展開をしていくあたりが、マイルスのそれとは明らかに異質です。

 

 

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デューイ・レッドマンは決して器用であったり、上手いミュージシャンではありませんが、キースが求める「声」を持っています。


キースを含めた各メンバーは、ソロを取るというよりも、あくまでもキースが意図するところのアンサンブルに徹しきっており、そういう意味で、コンポーズやアレンジが何よりも最優先されている音楽であり、しかしながら、その演奏はキースの完全即興のソロピアノと実は似ていて、彼には即興と作曲の垣根が実は余りない事もわかります。

 

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アルメニアアメリカ人である、ポール・モーシャンは、1990-2000年代の最重要人物でした。

 


このアルバムは1970年代のキースの実に多様な活動の1つの集大成であるとも言え、以後、このような方法論でキースがアルバムを作ることがほとんどなくなり、以後、彼の活動はスタンダードトリオとソロピアノにほぼ限定されていきます。


その意味でも本作は「スタンダード以前」を考える上で大編成重要なアルバムであります。


全部聴くと50分近い組曲ですから、決して聴きやすいとは言い難いですけども、彼の多面性を知る上で決して外す事のできない傑作であると思います。

 

 

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驚くべきことに、もはやキース以外のメンバーは既に鬼籍に入っているであった。時の経つのは速い。