mclean-chanceの「Love Cry」

はてなダイアリーで長年書いてきたブログを移籍させました。生暖かく見守りくださいませ。

ドン・チェリーとキース・ジャレットは意外と近いのかもしれません。

Don Cherry『Relativity Suite』(JCOA)

 


Personnel:

Don Cherry(composer, conductor, tp, conch, voice, perc),


Charles Brackeen(ss, as, voice),

Carlos Ward(as, voice),

Frank Lowe(ts, voice),

Dewey Redman(ts, voice),

Sharon Freeman(frh),

Brian Trentman(tb),

Jack Jeffers(tuba),

Carla Bley(p), Charlie Haden(b),

Ed Blackwell(drms), Paul Motian(drms),


Leroy Jenkins(violin),

Joan Kalisch(viola), Nan Newton(viola),

Pat Dixon(cello), Jane Robertson(cello),


Moki Cherry(tambura),

Selene Feng(ching)

 


recorded at Blue Rock Studio, New York City, February 14, 1973

 

 


フリージャズからも自由になってしまった、真の自由人、ドン・チェリーが、ジャズ・コンポーザーズ・オーケストラ(以外JCOA)と共演した組曲


1970年にJCOAがドン・チェリーから委嘱された曲のようで、それをスタジオ録音したもののようです(もしかしてライヴでの演奏が先で、スタジオ録音が後なのでしょうか)。


JCOAのアルバムにはすでにドン・チェリーは参加しておりますが、今回は完全にドン・チェリーがイニシアチブを取った、彼の作品と言ってよいと思います。

 

 

f:id:mclean_chance:20210623224021j:image

オーネット・コールマンとのカルテットは当時のジャズに少なからぬ衝撃を与えましたが、その後のドン・チェリーの活動をフォローしているジャズファンは多くないのではないでしょうか。

 


組曲の最初「マントラ」はタイトル通りにドン・チェリーのお経から始まるのがドギモを抜かれますが、やがてカーラ・ブレイのシンプルな繰り返しのピアノが入ってくると、ちょっとジャズなので安心してきます。


アレッ。この展開どこかで聴いたような。と思ったのですが、キース・ジャレット『Survivors’ Suite』の冒頭と似てますよね。


コレもどこだかわからない民族音楽のような音楽がやがてデューイ・レッドマンのテナー、キースのソプラノよるユニゾンが始まり、そこにチャーリー・ヘイデンの深いベイスの音がかぶってくるとジャズになっていきます。


よくよく考えたら、「アメリカン・カルテット」のキース以外のメンバーって、JCOAですよね(笑)。

 

f:id:mclean_chance:20210623224607j:image
ドン・チェリーも参加するカーラ・ブレイの畢生の大作、『Escalator Over The Hill』でもチェリーがソロを取り始めると演奏の様相がガラッと変わって別世界になります(笑)。

 


実はキースって、ドン・チェリーに案外影響受けているのかもしれませんね。

 

チェリーもお経を唱えたり、独特の味わいのある歌やヴォイスを駆使する、マルチ楽器奏者です。


このアルバムもカーラやヘイデンの演奏が入ると俄然ジャズになってくるのですが、そこにチェリーの非常にシンプルな歌声、トランペットなどが絡んでくると、何か時空がフニャフニャとしてきて、全体が弛緩していき、ジャズである事から逸脱しようとします。

 

しかし、そこをJCOAが食い止めているような気がします。

 

f:id:mclean_chance:20210623224250j:image

ドン・チェリーカーラ・ブレイチャーリー・ヘイデンの間の弛緩と緊張感が本作のキモです。

 


この弛緩と緊張の絶妙なバランスが本作の面白さでありまして、決して生煮えの未完成音楽が提示されているわけではありません。

 

このゲテモノ、キワモノと呼ばレッドマンかねないスレスレのところを余裕綽々で渡り歩いていたのが、ドン・チェリーの凄さであり、今聴いてもその衝撃はものすごいものがあります。

 

キースと明らかに違うのは、超絶的なテクニックを競うような方向には決して向かっていかず、どこまでも解放的でピースフルな世界を追及している事であり、シリアスで没入的なキースとは真逆と言えます。

 

全体におけるチェリーの演奏はそれほど多くはないのに、結果としてドン・チェリーの世界に誘われてしまうところが、やはり只者ではありません。

 


ジャズが何か別の音楽に変貌していく事への大きな示唆を、余りにも呆気なく成し遂げてしまっていて、かつ、キースのような先鋭的なジャズメンにすら影響を与えてしまうという偉大さが、チェリーの飄々とした音楽活動によって過小評価されている気がするのは、とても残念です。

 


ドン・チェリーキース・ジャレットの共演を80年代に見てみたかったですね。

 

f:id:mclean_chance:20210623224918j:image