mclean-chanceの「Love Cry」

はてなダイアリーで長年書いてきたブログを移籍させました。生暖かく見守りくださいませ。

実はかのトリオはキースがリーダーというわけではない事がわかる傑作

Gary Peacock『Tales of Another』(ECM)

 


personnel;

Keith Jarrett(p),

Gary Peacock(b),

Jack DeJohnette(drms)

 


recorded at Generation Studios, New York, February, 1977

 

 

ギャリー・ピーコックのリーダー作で、すべて彼の作曲ですが、メンバーが完全にかのスタンダード・トリオです。

 

チャーリー・ヘイデン、ポール・モーシャンによるトリオから発展させた「アメリカン・カルテット」は、行き着くところまで行き着いたと感じたのか、事実上解散してしまいました。

 

そして、キースにとっての第二のトリオであり、彼の活動の最長のユニットとなったのがこのギャリー・ピーコックとジャック・ディジョネットというトリオでした。

 

コレを機軸に、キースは1980年代もまた多様な活動をしていくのかと思われたのですが、このトリオとソロにほぼ活動が限定され、しかも、そのまま2010年代まで続きました。

 

キースが2018年の病気の後遺症によって身体が不自由となり、更に2020年にピーコックが亡くなりましたから、もうこのトリオは事実上消滅しまったわけですけども、本作はその第一歩という事で、実は大変重要な作品だと思います。


よく、スタンダードトリオというと、キースばかりが注目が集まりがちです。


実際、彼の身を捩らせ、唸り声を上げながらのエクセントリックな演奏というのは凄まじいものがありますから、どうしても彼の言動に注目が集まるのもムリはありません。


しかしながら、このトリオ、よくよく考えてみると、すごいメンツですよ(笑)。


ギャリー・ピーコックは、ビル・エヴァンスと共演したかと思えば、かのアルバート・アイラーとも共演しているようなベイシストであり、更にトニー・ウィリアムズのリーダー作にも参加していたりするような、かなりの振り幅で活動しているベイシストです。

 

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最初の奥さんはミュージシャンのアーネット・ピーコックでした。1970-72年に京都に在住し、禅の修行に傾倒し、それは生涯にわたって続けられたようです。

 

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アーネット・ピーコックはかなり前衛的なミュージシャンとして知られます。後にジャズピアニストのポール・ブレイと結婚しました。

 


ジャック・ディジョネットジャッキー・マクリーンに見出され、やがて、チャールズ・ロイドのカルテットのメンバーとして、キースとともに注目を集めると、彼とともにマイルス・デイヴィスのグループへ参加しているような凄腕です(キースの在籍はかなり短期間ですが)。


キースとディジョネットが久々に一緒に演奏するところに、かなり経歴の異なるギャリー・ピーコックが参加したことが、このバンドにある種の緊迫感がもたらさせたと思っていて、その彼を一応のリーダーに据えて(ピーコックの曲を演奏するからでしょうか?)、内実は3人は完全に対等な立場で演奏しています。

 

なので、特徴は3人の濃密という他ない、そのインタープレイを中心とするアンサンブルの凄さです。

 

このアルバムでのピーコックの演奏はそれほど個性的ではなく、むしろ全体のアンサンブルを考えて控えめですが、本作はリーダー作というのもあるからなのか、いつもより自己主張を感じます。

 

そして、それは後にスタンダード曲を中心に演奏したり、時には完全即興で演奏しても、実は全く変わらない特徴でもあり、要するに、あのトリオを「スタンダードトリオ」と呼んでしまうのは間違いである事がわかりますし(スタンダード「も」演奏するトリオというのが正確でしょう)、キースがリーダーであり、すべてを決めているようなトリオでもないという事は演奏から感じられます。


どの曲の演奏も素晴らしいですが、LPでいうところのB面の三曲、「Trilogy1」「同2」「同3」の次第に上り詰めていくような構成力はやはり圧巻ですね。

 

スタンダード曲を演奏している彼らしか聴いた事のない方には本作は特にオススメします。

 

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