Dexter Gordon『Clubhouse』(Blue Note)
personnel;
Dexter Gordon(ts), Freddie Hubbard(ts),
Barry Harris(p),
Bob Cranshaw or Ben Tucker(b),
Billy Higgins(drms)
recorded at Rudy van Gelder Studio, Englewood Cliffs, New Jersey in May 27, 1965
『Gettin’ Around』の前日の録音ながら、1979年までオクラ入りしていたという、ブルーノートに非常に多くあった未発表アルバムの1つ。
ブルーノートには、本作のようなクオリティのアルバムがゴッソリと未発表のままになっている事がホントに多いのですけども(2021年現在、それらのほとんどはすでに発表されています)、それらのクオリティの高さにはいつも驚かされます。
コレなども『Gettin’ Around』の前日の録音なのですから、デックスの調子も良かったはずですし、サイドメンも被っており、ボビー・ハッチャーソンのヴァイヴがいない代わりに、フレディ・ハバードが参加しているくらいです。
要するにほぼクオリティの保証がされているという、大変ありがたいアルバムなんです。
デクスター・ゴードンは麻薬禍によって、ハードバップ全盛期である、1950年代をほぼ棒に振ってしまい、1960年代からブルーノートでの録音が始まるのですが、サイドメン、とりわけ、ピアニストに恵まれています。
晩年は俳優としても活躍した、デクスター・ゴードン。
『Our Man in Paris』のバド・パウエル、『Go』のソニー・クラーク、『Gettin’ Around』と本作のバリー・ハリスはとりわけ素晴らしく、ともすれば、ボヤけ気味になりがちなデックスのテナーをいい塩梅にシャキッとさせています。
こんな事を書くと悪口みたいな感じに見えますけども(笑)、デックスの持ち味は自分の歌をマイペースに歌う事であり、ビバップの丁々発止の鉄火場やコルトレインのようなシリアスな世界とは無縁の人ですね。
ともすれば、何のヒネリも工夫もないフレーズを平然とボエーンを吹く人なのですけども、不思議な事にそこが魅力です。
彼の音色にはバップのミュージシャンには欠落しがちな音の温かみとか、滋味に富んだ味わいが非常に濃厚です。
天才ではないかも知れませんが、彼特有の歌心がありますね。
コレにバリバリと吹きまくるタイプのフレディ・ハバードのトランペットが配置されているのがいいですね。
ともすれば吹き過ぎてしまうところのある、フレディ・ハバードも本作ではいい仕事をしてます。
フロントがわかりやすく好対照のキャラクターである事は、ミュージシャンの個性の違いを楽しむというジャズの基本が押さえられているわけで、この辺が、ブルーノートのプロデューサー、アルフレッド・ライオンの素晴らしさ(本作リリースのためのプロデューサーは、マイケル・カスクーナ)。
デックスの作曲した「Hanky Panky」が心地よく、「I’m A Fool to Want You」や「Jodi」のようなスローナンバーを朗々と吹くのは、まさに彼の独壇場。
フレディは基本は吹きまくり系の人ですが、ここではデックスのスタイルを尊重して、非常にソロをコンパクトにまとめていて、私はむしろ普段の彼よりも好感が持てます。
そして、本作のクオリティをグッと上げている、バリー・ハリスのピアノが実にいいですね。
もはや、バップ世代の最後の生き残りとなった、バリー・ハリス。
決して派手なところはないのですが、実にツボを押さえた演奏です。
こういうセッションには、ビリー・ビギンズのようなシンプルなドラムがピッタリです。
要するに、本作の素晴らしさは、メンバーの組み合わせのバランスが素晴らしいという事につき、アルフレッド・ライオンの見識の高さが改めてわかる傑作なのでした。