mclean-chanceの「Love Cry」

はてなダイアリーで長年書いてきたブログを移籍させました。生暖かく見守りくださいませ。

カークが音楽的にも政治的にも最も過激だった頃の傑作です!

Roland Kirk『Volanteered Slavery 』(Atlantic)

 


personnel;

Roland Kirk(ts, fl, manzello, stritch, nose flute, whistle, gong, vo),

Ron Burton(p), Vernon Martin(b),

Charles Crosby(drms)(tk 1),

Sonny Brown(drms)(tks 2-5),

Jimmy Hopps(drms)(tks 6-10),

Joe Hsbao Texidor(perc))(tks 1,6-10)

 


The Roland Kirk Spirit Choir (baking chorus)(tks 1-5),

Charles McGhee(tp)(tks 1,5),

Dick Griffith(tb)(tks 1,5)

 

recorded at Regent Dound Studios, MYC, July 22-23, 1969

and at Newport Jazz Festival, July 7, 1968

 

※一部、誤りを指摘されましたので、訂正しておきます。

 

アトランティック期はカークが最も過激なパーフォーマー、政治的アジテーターとしていた時期にほぼ重なりますが、本作はLPではA面が非常に考え抜かれて作られたスタジオ録音、B面はニューポートジャズ祭での熱狂的な演奏が収録された、変則的なアルバムであり、当時のカークの両面を知る事ができる、お徳盤であり、この時期の最高傑作です。

 

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管楽器は金属でできてますから、テナーサックスだけでもかなり重いのですが、これをこんなに首から下げているのは相当大変そうですよね。。

 


タイトルを直訳すると『志願奴隷』。


公民権運動とヴェトナム戦争の長期化がアメリカ社会に不安と分断が渦巻く状況にあり、カークもまたアフリカ形アメリカ人として、その旗幟を鮮明にしたものと考えられますが、「オレは志願してど奴隷になったんだ!」という、当時の白人中心社会であるアメリカの最大の汚点である、黒人奴隷制への痛烈な皮肉ですね。


バート・バカラック作曲家、ハル・デイヴィッド作詞の「I Say A Little Prayer」は、ディオンヌ・ウォウィックの1967年発売のシングル曲で全米4位、R&Bシングルチャート8位の大ヒットで、コレをアリーサ・フランクリンが1968 年にカヴァーし、全米10位、R&Bシングルチャート第3位した、当時の大ヒット曲をカヴァーしているのですが、恐らくカークが参考にしたのはウォウィックのバージョンで(アリーサのカヴァーは、バックコーラスがバックところか「メインコーラス」のように歌っている、ソウルとして考えるとものすごくユニークなカヴァーです。このコーラスがものすごくフィーチャーされている部分はカークは影響受けた可能性がありますね)、それを更にカーク流のブラックミュージックに作り変え、スタジオ録音屈指の名演となりました。

 

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ディオンヌ・ウォウィック。

 

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ソウルの女王、アリーサ・フランクリン。2021年に伝記映画『リスペクト』が公開され、ジェニファー・ハドソンがアリーサ役です。


この思わず踊りたくなるようなものすごい扇動性を、バカラックの曲から捻り出してしまうカークのアレンジ能力の凄さには脱帽せざるを得ません!


冒頭でカークが「They Shot him down to the ground !」と叫んでますが、恐らく、この曲の録音と同じ年に暗殺された、マーティン・ルーサー・キング牧師を指しているものと思います。

 

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 公民権運動の指導者として、ノーベル平和賞を受賞しましたが、1968年4月4日にテネシー州メンフィスで暗殺されました。

 


つまり、このカヴァーは彼の死を追悼する「小さい祈り」 でもありました。


その他にも、コレまたスティーヴィ・ワンダーの名曲「My Chérie Amour」も大変な名演。


ティーヴィの屈託のない明るさを更に明るくしたようなカヴァーで、私はスタジオ録音では2番目に好きです。


この、まるでポップスのアルバムを作るような精巧さで作られた、レコードで言うところのA面に対し、B面は1968年のニューポートジャズ祭に参加している様子を録音したのもです。


こちらは彼の当時のレギュラーメンバーでの熱狂のパフォーマンスで、観客もMCもやんややんやの大騒ぎで、ほとんどロックライヴ状態です。


圧巻は1967年に亡くなった、ジョン・コルトレインへの追悼を兼ねてのメドリから、カークの定番曲「Three for The Festival」へと一挙になだれ込んでいくところが、痛快極まりないです。


唸り声を上げながらのフルートソロには唖然としてしまいますね。

 

コルトレインの『至上の愛』のフレーズの意図的な引用が見られますが、実は「I  Say A Little Prayer」でも引用しているんですよね。


本作は熱狂のブラックネスが大爆発した、祝祭的なジャズですが、そこには時代の英雄であった、マーティン・ルーサー・キング・ジュニア、ジョン・コルトレインへの追悼の意味が込められている作品でもありました。

 

が、やはり、全編を貫くブラックネスこそが本作の最大のキモであると思います。


前回紹介した、『溢れ出る涙』とともにお聴きください!

 

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