Circle『Paris-Concert』(ECM)
personnel;
Anthony Braxton(as,fl,cl,perc),
Chick Corea(p),
Dave Holland(b,cello),
Barry Altschul(drms, per,whistle)
recorded at The Maison de L’O.R.T.F. , Paris on February 21, 1971
短命に終わった、「サークル」のフランス放送協会(1974年に廃止。公共放送のラジオ・フランスに改組)でのライヴを収録したアルバム。
サークルは、もともと、チック・コリアとデイヴ・ホランドがマイルス・デイヴィスのバンドに在籍していた時に意気投合し、ここにドラムのバリー・アルトシュルが加わったトリオでの活動に、マルチリード奏者のアンソニー・ブラクストンが加わった形で成立したのですが、メンバー同士の不和などが原因で活動は一年ほどで終わってしまいます。
もはや説明不要のチック・コリア。生涯現役でした。
後の活動しか知らない人には、ココでのチック・コリアの演奏のハードコアぶりを聴くと驚くでしょうし、あのブラクストンと短期間とはいえ一緒に活動していたというのは、とても興味深いです。
しかし、1969-70年の、過激化していくマイルスのコンボに在籍し、狂ったようにフェンダーローズを弾いていたチックのライヴの様子がマイルスの死後に発表され、よく知られるようになった現在では、ココでの彼の演奏は唐突に過激になったわけではない事がわかります。
が、サークルが発売された頃の日本に於いては、チックのマイルスのもとに在籍していた頃のライヴなど知る由もないですから、このバンドでのありようは、多くのジャズファンには謎だったと思います。
意外にも「Nefertiti」や「No Greater Than Love」が演奏されているので、ブラクストンがいる割には、選曲はエゲつなく厳しくはないので、そんなにビビル事はありません。
とは言え、この種の音楽を聴こうとしている人には余計な心配かも知れませんが。
このアルバムの聴きどころはCDで言うところの2枚目でLPだとそれぞれ片面に目一杯入っている2つの演奏、「Toy Room-Q & A」、「No Greater Love」です。
いずれも24分、17分を超える演奏なので、それなりの覚悟を持って聴かなくてはなりません。
が、よくよく考えてみると、チックの翌年の大ヒットアルバム、『Return to Forever』もB面目一杯で2つの曲を連続して演奏しているので実は同じだったりする事実が浮かび上がります。
この2つを結びつけて語る言説は余り見られませんし、売上的には全く正反対であろう2枚ですが(ただ、コンサートの観客の声を聞く限りではパリのお客さんは結構来ているように思うので、ヨーロッパでは結構人気あったグループなのかもしれません)、バンドのイニシアチブをチックが完全に握り、ヴォーカルを入れたり、エレピやエレクトリック・ベイスを演奏し、サックス奏者をよりバンドアンサンブル向きに変更すると、実は『Return to Forever』になるではないですか(笑)
説明するのもイヤになる『Return to Forever』。今聴くと意外とハードな演奏である事に驚きます。
コレは聴いていてものすごい発見でしたね。
短命に終わってしまったサークルは後になって聴き返してみると、あの大ヒット作の下準備に結果としてなっていたんですよ。
1967年にフリージャズの指導者的存在として崇拝されていたであろう(当人はそれにどこまで自覚的だったのかがよくわからんですが)、ジョン・コルトレインが亡くなり、音楽的な行き詰まりやマンネリ感も生まれてきたところ、やはり、方法論の見直しなどがそれぞれに行われていたのですが、サークルはバンド名を冠しているだけに、誰かが突出してリーダーシップを取って演奏全体を引っ張るのではなく、全員が民主的にあって、緊迫感と構成力のある演奏をしていく方針が取られています。
この点で、このグループよりも前に結成されている、アート・アンサンブル・オブ・シカゴなども、音楽性こそ違いますが、同じ事が言えますし、キース・ジャレットのあらゆる活動(それは「スタンダード・トリオ」にも及ぶと思います)に見られます。
演奏に於いて終始素晴らしいのは、デイヴ・ホランドの太いのに、ものすごい速弾きな展開もあるベイスであり、彼が演奏の要である事は間違いありません。
今尚現役最高峰のベイシスト、デイヴ・ホランド。
もともとがチックとホランドがマイルスのバンドで意気投合したところに、アルトシュルが加わったトリオがこのバンドの核ですので、この3人の演奏になった時の演奏の濃密度は並はずれています。
フリーからオーソドックスな演奏まで幅広くこなす、バリー・アルトシュル。
このトリオでのライヴをECMから出してほしかったですね。
傑作スタジオ盤『A.R.C.』はあるのですが。
このアルバムの素晴らしさは既にブログに書きました。
そこにやや異物感を漂わせるアンソニー・ブラクストンが入っているところが良くも悪くも「サークル美」を形成していて、この4人がイザ一斉に演奏すると、ちょっと山下洋輔トリオを思わせるところがあります(特に「73°Kelvin」)。
現在は教育者として、ジャス界に多くの人材を輩出している、アンソニー・ブラクストン。
山下洋輔トリオの、とりわけ第二期と俗に呼ばれる、坂田明、山下洋輔、森山威男という日本ジャズ史上にその名を轟かす、恐ろしくキャラの立った3人の演奏はいずれもド派手であり、歌舞伎の荒事のようなカッコいいキメの入る展開を持ちますが、それは「サークル」の目指すところではなく、もっとシリアスで、禁欲的な世界です。
そこが短命に終わった最大の原因のような気もしますが、短命ゆえに美しい演奏であったと言う事は言えると思います。
妥協的なアンサンブルではなく、意見のぶつかり合いも辞さない緊迫感は、コレまた短命に終わってしまった、ロックバンドのクリームのような潔さすらあります。
そのグループのライヴをタップリと録音し、発売してくれたECMは当時はまだ、西ドイツの新興レーベルでしたが、ジャズ界に一石投じたいという、マンフレット・アイヒャーの意気込みを感じますね。
2021年に惜しくも亡くなったチック・コリアが、このような演奏をしていた事は忘れてはならないでしょう。