Mark Lockhart『Dreamers』(Edition Records)
Personnel;
Mark Lockhart(ts, ss),
Elliot Galvin(keys),
Tom Herbert(b),
Dave Smith(drms)
recorded at the Fish Factory, London, UK, December 3-5, 2020
マーク・ロックハートは、1980年代から活躍するベテランで、ジャンゴ・ベイツ(なぜ日本では未だに知る人ぞ知る存在なのか、全くわからない)のアルバムに参加する他プリファブ・スプラウト、レディオヘッド、ハイラマズ、ステレオラブなどのロックバンドのアルバムにもゲスト参加する、非常に柔軟なミュージシャンです。
イギリスでもちゃんと独自のジャズシーンはありました。
なんと、ロックハートは『KID A』に参加しているんです。
私はあまりイギリスのジャズというものをあまり追いかけていないので、このアルバムを聴いたのを期ににわかにWikipediaで彼の事を見てたら、上記の事が書いてあったんですけども(笑)、まあ、要するにですね、彼の事はよくわかってないんですよ。
しかしながら、このアルバムを聴く限りにおいてハッキリと言える事は、ダテに長いキャリアを持っている人ではない、非常に手堅い実力を持っているサックス奏者であるという事ですね。
時折、ソプラノに持ち替えるテナー奏者であり、その意味で、コルトレイン以後のサックス奏者の典型ですが、彼の演奏には、特にコルトレインというものを-テナー習得の際にコピーしたとか、彼の曲を分析したとか、そういう意味ではなく-特に考える必要はないと思われます。
彼の、言いたいことを最低限のフレーズで言い切るというスタイルは、それこそ、ズート・シムズまんまをなぞってはいないですけども、彼の系譜と言えなくもないです。
サイドメンについての言及が全くありませでしたが、このアルバムのユニークさは、通常、ピアニストにあたるプレイヤーがあまりジャズでは用いないような、それこそ、ちょっとストレンジなポップスに使われるような音色を多用するキーボードでして、コレが、あまり多弁ではないテナーに対してかなり饒舌であり、ジャズには珍しいカラフルさを与えているのが面白いです。
音それ自体は、それほど新しいという気はしませんし、個々の要素は驚くような凄さみたいなものは、ないのですが、この組み合わせが妙なクセと言いますか、味わいがあるんですよ。
コレは一体何なのだろうか?と聴きながら考えていて、ふと、行き着いたのが、コレが現在における「ハードバップ」なのだと。
ハードバップとは、ビバップの持つ後は野となれ山となれ的な精神ではなく、もう少しアンサンブルとかアレンジとかソロとソロのつながりの脈絡を考えて演奏する事で、音楽にリラックスや癒しを与えるという、いわば、ビバップをポップ化したもの。と考えてよいと思いますが、このワンホーンカルテットのサックスのベテランの持つ派手さはないが、言いたいことを的確にいうスタイル、ポップな色彩を持つキーボードが、いやが応にも「リラックスと癒し」を感じざるを得ないのです。
このアルバムが優れているのは、この路線が決して、音楽的な後退や阿りから取られているのでなく、あくまでも演奏の質は高く、ダレや慣れというところに陥っていないという事で、コレは案外できそうでできるものではないのですね。
現在のイギリスのジャズシーンは次々と優れた人々が出現し、聴く者を驚かせ続けていますが、こうしたベテランの派手さはないですが、滋味深く、ポップですらあるアルバムが実は作られたていたという事実を知る事は指摘しておく必要があると思います。
ベイスとドラムがやや物足りない気はしましたが、故にハードバップたり得ているとも言えます。