mclean-chanceの「Love Cry」

はてなダイアリーで長年書いてきたブログを移籍させました。生暖かく見守りくださいませ。

パウエル+ガーナー+ベイシー=ガーランド

Red Garland『Bright and Breezy』(Jazz Land)


personnel;

Red Garland(p),

Sam Jones(b),

Charlie Persip(drms)

 


recorded at Plaza Sound Studios, NYC

on July 19, 1961

 


モダンジャズピアノには、「パウエル派」という人々がおります。


「パウエル」とは、ジャズファンには釈迦に説法である、天才バド・パウエルのことですが、パウエル以前/以後というのは、ジャスピアノというものがまるっきり変わってしまいました。

 

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ジャズ史上、天才の名をほしいままにできるのは、チャーリー・パーカーと、このバド・パウエルだけなのかもしれません。


パウエルのピアノはものすごく乱暴に行ってしまえば、チャーリー・パーカーの語法をピアノに置き換えたものでして、そうしますと、パーカーはアルトサックス奏者ですから、ピアノの左右の鍵盤がアルトサックスの音域しか使わない事によって、カットされているんです。


しかも、パーカーのアドリブソロを置き換えるわけですから、右手が異様に速く動くのに対して、左手はコードをブロックするだけになります。


音がものすごく少ないんですね。


その足りない部分をベイスが補うので、必然的にモダンジャズはベイスの奏法がそれ以前と比べて著しく発達する事になります。


エリントン ・オーケストラに短期間参加していた、ジミー・ブラントンの奏法に基調にしてモダンジャズの奏法は著しく発展した増したが、それと同時にパウエルのピアノ奏法がベイスが活躍する余地を大きく作ったんですね。


パウエルがいなければ、かのビル・エヴァンズの、スコット・ラファーロとポール・モーシャンによる伝説的なトリオもなかったのかもしれません。

 

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パウエル派以降のジャズピアノを一新してしまった、ビル・エヴァンズ。写真はエディ・ゴメス、ジャック・ディジョネットとのトリオです。


話が大きくそれている気がしますけども(ちゃんと戻りますので、ご安心を・笑)、パウエルの奏法は天才たるパウエルが極限まで極めてしまいました。


それはパーカーも同じです。


ビパップはパーカーとパウエルが極め尽くしてしまっておりまして、これ以上の発展は難しい事がミュージシャン側にもだんだんも気がついてきたんですね。


コレがジャズの次の展開をもたらすのですが(そして、それこそがモダンジャズ黄金期を形成します)、「パウエル派」と呼ばれるピアニストは、パウエルが完成したさせたスタイルを継承しつつ、各人がそれぞれにパウエルにはない要素を取り込んで、いわば、混淆的なスタイルを作り、ビパップをいわば「ポップ化」したものと言えます。


さて、我らがガーランド氏にとってそれはなんであったのか?という事が端的にわかるアルバムが本作はだと思います。


マイルスの第1期黄金クインテットのメンバーでもあったガーランドは、本質的に快楽的で、コルトレインのようなシリアスなジャズメンではなくありません。

 

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生涯にわたり、快楽的なピアノを追求していた、レッド・ガーランド


基本的な語法はパウエルなのですが、スローナンバーになると、明らかにエロール・ガーナーの影響が聴き取れます。

 

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ガーナーの「快楽ピアノ」のルーツはエロール・ガーナーなのでしょう。相当にカットしてますけども。


「What’s New」の演奏でのブロックコードの使い方、響き方はとてもエロール・ガーナーに似てます。


まあ、ガーナーしかやらないような、ものすごい装飾音はモダンジャズにはそぐわないので、ガーランドは呆気なく全カットしてますけども。


そして、カウント・ベイシーですね。


ベイシー・オーケストラのキラーチューンの1つである、「リル・ダーリン」を取り上げてますよね。


俗に『アトミック・ベイシー』と日本で呼ばれているアルバム(原子爆弾の大爆発を大写しにしたところにBasie !と書いてある不穏なジャケットですね)のラスト曲に、もう止まってしまうのでは?というくらいのBPMで演奏されているのですが、ガーランドはいい感じの湯加減で3人でベイシー・オーケストラを再現しております。

 

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今では完全にアウトなベイシーの傑作、『Basie』(笑)。


ベイシーのレパートリーは編曲が難しくないので、ピアノトリオで再現しやすいです。


こうして聴いていきますと、レッド・ガーランドという人は、パウエル+ガーナー+ベイシーでだいたい出来上がっているのだな。という事がこのアルバムから聴き取れるわけです。


そうかと思うと、「Blues in The Closet」「So Sorry Please」のようにパウエルまんまみたいな演奏も聴けます。

 

パウエル派には、ウィントン・ケリーバリー・ハリストミー・フラナガンケニー・ドリューと言ったピアニストがいますけども、コレらの名手の違いを聴き分けていくというのが、そのままハードバップマニアになっていくという事になります(笑)


本作最大の聴かせどころは、上記のスタイルが全部入っている「On Green Dolphin Street」でして、名手ガーランドの素晴らしさがてんこ盛りの名演です。

 

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全体的に明るい感じも好感が持てます。