Colin Vallon Trio『Le vent』(ECM)
personnel;
Colin Vallon(p),
Patrice Moret(b),
Julian Sartorius(drms)
recorded at Rainbow Studios, Oslo, Norway on April 2013
たとえば、レッド・ガーランドであるもか、トミー・フラナガン、ケニー・ドリュー、ソニー・クラークといった、いわゆるハードバップのピアノトリオは、日本のジャズファンに根強い人気を誇ってきました。
トミー・フラナガンやソニー・クラークは本国アメリカでは評価が低いのだそうですけども、それはともかくとして、本作はそんなハードバップの楽園の時代から50年を経たトリオでありまして、この間には、当然のことながら、ハービー・ハンコック、マコイ・タイナー、チック・コリア、キース・ジャレットなどという、バップ以降の名手たちが活躍してしたわけですけども、このトリオの演奏は、バップともバップ以降とも違う、そういうジャズの歴史から、プッツリと切れてしまい、空中を彷徨っている凧のような存在に思えます。
敢えて近いものをあげると、e.s.t.こと、エスビョルン・スヴェンソン・トリオなのでしょうけども、彼らよりも遥かにあり方がストイックですね。
やや陰鬱で、深い残響がタップリと入った録音したは、「ECM美」とも言える、独特の人工美を讃えているが、それはポール・ブレイやリッチー・バイラーク、スティーヴ・キューンとも違うもので、一聴すると、ジャズと呼ぶことすら躊躇する音響です。
一曲毎のメリハリを敢えてなくし、まるですべてがつながっているような、霧の中を彷徨っているような演奏であり、メンバー全員の名前が併記されていることからもわかるように、本作は完全に3人による、かなり精緻なアンサンブルである事は明白です。
この手の陰鬱なECMの作品はそれほど好みませんが、この作品は表現として、この手の凡百を遥かに凌駕している事が、私にもわかります。
一曲で燃え上がるような演奏なのではなく、アルバム全体を使ってジックリと聴き手を深い霧の中に誘っていくような演出が巧みになされていて、そこがわからないと、本作の良さはわからないと思います。
つまり、一曲を取り上げてどうこう論じても余り意味がなく、全曲を通して聴いて初めてその意図がわかるように作っているんですよ、コレは。
現在のような配信が音楽視聴の中心となっている状況にはかなり不利ですな、このような万人受けしない音楽もあっていいでしょう。