Charles Lloyd 『Trios : Chapel』(Blue Note)
personnel ;
Charles Lloyd(ts,alto flute),
Bill Frisell(g),
Thomas Morgan(b)
recorded live at Elizabeth Huth Coates Chapel, Southwest School of Art, Saab Antonio, Texas, on December 4, 2018
チャールズ・ロイドは典型的な大器晩成型のミュージシャンですが(それはジャズの世界ではかなり珍しいです)、2022年にロイドは「Trios」と称する、それぞれに別のメンバーによる変則的なトリオ編成のアルバムを立て続けに発表しています(どうやら三部作のようです)。
本作は『Chapel』と名付けられた、テクサス州サン・アントニオ にある教会での2018年12月4日のライヴです。
ココでのトリオは、「Chapel Trio」ともジャケットに書いてある、ビル・フリゼールとトーマス・モーガンという、要するに、現在のフリゼール組の選抜メンバーを従えた変則トリオです。
1980年生まれのトマス・モーガンは、ロイドから見たら孫、フリゼールから見たら息子の世代ですね。
私はECMに在籍していた頃のロイドの良さが今ひとつ掴めませんでした。
なんというか、歯ごたえのなく、しかもあんまり味のしないはんぺんを食わされているような按配で、面白さが伝わってこなかったんですよ。
ところがですね、彼がドン・ウォズ体制となったブルーノートに移籍してからのアルバムが悉く素晴らしいんです。
ドン・ウォズのブルーノート社長就任は大きな方向転換となりました。
彼の空中を彷徨うようなテナーやフルートの演奏が一体何を意図していたのかがよくわからなく、それをECMの、あの、独特のアンビエンスの録音がますますわからなさを助長していたキライがあったのですが、それが彼の意図する曲想、そして、サイドのメンバーとの間で噛み合ったんです。
それがなんともフォーキーな味わいを醸し出してきて、まあ、安直な物言いですが、2000年代以降、ナンサッチュ(Nonsuch)レーベルが追求していた「アメリカーナ」のサウンドとも呼応していたというか、時代がようやくロイドのやろうとしていた事と合致したといいますか。
なんと言っても、ロイドとは違う道筋でフォーキーな音楽を追求していたフリゼールがロイドに合流してきたのは、実に大きいですね。
フリゼールはまさにナンサッチュの顔と言ってよいミュージシャンでして、同じく「アメリカーナ」を追及していた、ポール・モーシャンと共演していました。
ロイドとフリゼールの出会いはある意味で必然であり、ロイドが以後、傑作を連発し続けているは当然かと思います。
本作はCovid-19 が世界的大流行する前に録音されたものですが、3人は特にこれと言って特別な演奏をしているようには感じません。
しかしながら、その淡々とした演奏でありながら、その感銘は実に深く心に染み入ってくるのですね。
どの曲がいいとか、ロイドやフリゼール、モーガンのどの演奏がどうのとか、もうそういう事がどうでも良くなるような、単に音に身を浸していればいいような感じで、もはやそれはジャズとかですらない、何か別次元何かになっているかもしれません。
ロイドは齢80を超えて、とんでもない境地に達してしまったのだな。と思わざるを得ない、またしても傑作です。
あまりにも素っ気なく終わるところが、何ともジャスのライヴアルバムっぽい気はします。