mclean-chanceの「Love Cry」

はてなダイアリーで長年書いてきたブログを移籍させました。生暖かく見守りくださいませ。

ジョー・ファレル史を考える。

Elvin Jones『Puttin’ It Together』(Blue Note)

 

Personnel;

Joe Farrell(ts,ss), Jimmy Garrison(b),

Elvin Jones(drms)

recorded at Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, on April 8, 1968

 

 

Joe Farrell 『Joe Ferrell Quartet』(CTI)

 

personnel;

Joe Farrell(ts,ss,fl,oboe),

Chick Corea(el-p, p),

Dave Holland(b),

Jack DeJohnette(drms),

John McLaughlin(g) on 1, 7 only

 

recorded at Van Gelder Studios, Englewood Cliffs, New Jersey on July 1,2, 1970

 

 

Joe Farrell『Outback』(CTI)

personnel;

Joe Farrell(ts,ss,fl, alto flute, piccolo)

Chick Corea(el-p),

Buster Williams(b),

Elvin Jones(drms),

Airto Moreira(perc)

 

recorded at Van Gelder Studios, Englewood Cliffs, New Jersey on November 4, 1971

 

 

 

Chick Corea『Friends』(Polydor)

 


personnel;

Joe Farrell(ts,ss,fl),

Chick Corea(p, el-p),

Eddie Gomez(b), 
Steve Gadd(drms)


recorded at Kendun Recorders, Burbank, CA, 1978

 


ジョー・ファレルという人は、たとえば、ジョン・コルトレインであるとか、ソニー・ロリンズウェイン・ショーターといった超がつく個性的なサックス奏者ではなかったと思います。


しかしながら、彼はとても人に恵まれていたというか、故にサイドメンとして充実した演奏を残したジャズメンであったと思います。


ファレルのサックスは、ジョン・コルトレインの奏法を理論的に分析し、かつ、これを自らのスタイルとして継承したもので、その意味では同じ頃に台頭してきた、スティーヴ・グロスマン、デイヴ・リーブマンと同じであると言えます。


当時のジャズの最高のエリート集団である、マイルズ門下とコルトレイン門下の両方のサイドメンに参加しつつ(この辺も、リーブマンとグロスマンと同じだったりします)、しかも、自身のリーダー作には、彼らを参加させ、じCTIからのじ作品にしては、かなりハードな、ブルーノート新主流派の延長線上にあるようなアルバムを作る事のできる、言うなればとても器用な人だったと言えます。


コルトレイン本人は、とんでもないところに行ってしまったわけですが、その「後継者」たちは、こういう過剰とも言えるコルトレインの不可解な部分はほぼ削ぎ落とし、技術のみを分析、継承したものと考えてよいと思いますが、ファレルのそれは、マイケル・ブレッカーのように技術面の継承にのみ専心していますね。


リーブマンはもう少し「コルトレイン継承者」としての自身のスタイルについての探究があると思います。


リーダー作に於いても、ミュージシャンとしてのエゴを実現することよりも、参加したサイドメンたちが無理なく、しかしながら、シリアスにせめぎ合う時はやるという姿勢を一貫させている人で、そういう性格が、この場合幸いしているように見えます。


この、1968年から1978年という10年間は、ジャズにとっても大転換期だったと思いますが、このジョー・ファレルが関与した4枚のアルバムを定点観測するだけでも、「ジャズ史」というものが見えてくる/聴こえてくるものです。

 

コルトレインのもとを去り、新主流派的なサウンドに回帰して、ジョー・ファレルをフロントに据えた、エルヴィン・ジョーンズのリーダー作は、まさに「新主流派コルトレイン作」という言葉がそのまま当てはまる作品で、エルヴィンがコルトレインと何をやりたかったのかがとてもよく作品です。

 

エルヴィンは『至上の愛』くらいまでをコルトレインとやっていたかったのでしょうね。

 

よって、ファレルの役割は「エルヴィンの考えるコルトレイン」という、徹底したものに思えます。

 

多分にジョー・ヘンダーソンを経由したコルトレインをベースに、ファレルのスタイルというものは確立した事がよくわかるアルバムでもあります。

 

ブルーノートの録音で聴くと、エルヴィンのドラミングがインパルス!よりもカッチリと聞こえますね。

 

そして、当時のチック・コリアか追及していた、フリー寸前まで突き詰めた、マイルズ・デイヴィス1960年代末期〜サークル結成の1970年代初頭にかけての、非常にハードなジャズをダイレクトに受けて作られた『Joe Farrell Quartet』(このアルバムがCTIから出ている事実に教団しますね)。

 

ベイスとドラムズが交代し、パーカッションを加えるとこんなに劇的に音楽性が変わるのか?と思える、『Outback』は、当時の人々には、ほとんど「転向」したようにすら思える作風の変化がありますが、ファレルは、チック・コリアを世界的に有名にした『Return to Forever』にアイルト・モレイラとともに参加している事実を考えると、本作が「粘っこい『Return to Forever』」として出来上がっている事に気がつくはずです。

 

ファレルは、フルートの多重録音を行っているのも楽しいですが、より重要だとなのは、エルヴィンが叩くだけで、湿度が50%跳ね上がる所ですね。

 

『Return to Forever』の南国の軽やかな風のような音楽が、熱帯雨林の音楽に変貌するのは実に面白く、やはり両方持っていたいです。

 

こ2枚のリーダー作の変化は、恐らくはチック・コリアに同居している過激とポピュラリティの、後者に傾斜した結果であり、それは奇しくもこの時期のジャズに起こっていた変化でもあったわけですね。


このポピュラリティー指向が極点に達したのが、チック・コリアのリーダー作である、『Friends』でしょう。

 

先ほどのCTI作品よりもむしろCTIらしい、「音の質感がもたらす快楽」をアナログ盤でとことん追及したようなアルバムで、4人の名手はその事にひたすら奉仕しきっていますね。

 

CTIのアルバムはなんだかんだで、ニュージャージー州、イングルウッド・クリフスにある、ルディ・ヴァン・ゲルダー・スタジオという、ゴリゴリのジャズを録音してきたスタジオを使っているのですが、本作はワーナー・ブラザースの本拠地のある、カリフォルニア州バーバンクにある、およそ、ジャズのアルバムのレコーディングをするとは思えないような場所での録音です。

 

この事は録音や演奏にも相当影響出てまして、音がカラッと明るいですね。

 

シリアスなジャズを求める方には軟弱な音楽に聞こえるかもしれませんが、演奏内容は意外と芯が通ったものです。

 

「 Cappucino」における熱演は、彼らがイザとなったらガチなジャズメンである事を示していると思います。

 

このように、ジョー・ファレルという人は、時代の要請に柔軟に対応していく生き方を選んでいくタイプのミュージシャンであり、自分のやりたい音楽をいつの時代も貫くような生き方はしていない人ですね。

 

しかし、そのような事ができているミュージシャンというのは、どのようなジャンルにおいてもごくごく少数の人に限られ、実際は時代と折り合いをつけながらもその時々に於いて全力を尽くす他はないわけです。

 

このファレルの4枚のアルバムを聴くと、そんな事を考えてしまうのでした。

 

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