mclean-chanceの「Love Cry」

はてなダイアリーで長年書いてきたブログを移籍させました。生暖かく見守りくださいませ。

ジャズもまた「如何に聴かせるのか」という観点が重要である事を教えてくれるアルバムです。

Dave Liebman『What It Is』(columbia→sony

 


Dave Liebman(ss, ts,synth),

John Scofield(g),

Kenny Kirkland(keys,p),

Marcus Miller(b),

Steve Gadd(drms),

Don Alias(perc),

Mike Mainieri(synth)


Recorded in December 11-16, 1979 at Sound Ideas Studio, NY

 

f:id:mclean_chance:20221221215323j:image

リーブマンは時にその真面目すぎるところが欠点ですが、類稀なサックス奏者である事は言うまでもありません。

 


デイヴ・リーブマンは全面的に好きなミュージシャンというわけではないです。


とはいえ、相当な実力者ではありますから、優れた作品は結構ありまして、なんだかんだで私も愛聴しております。


リーブマンのどこが苦手なのかと言いますと、その余りに求道的で真面目なところなのです。


例えば、コレまた真面目ミュージシャンであるリチー・バイラークと組むと、長い、シツコイ、暗いが倍増されて、たまらなくなります。


彼が敬愛するジョン・コルトレインもまた求道的な人でしたが、リーブマンはまた一味違いまして、なんというか、どちらかというと、執念深さみたいなものを感じますね。


本作はよく、リーブマンが作ったフュージョン作品とか言われますけども、実際聴いてみると、リーブマンのジャズ根性がシッカリと伝わってくる力作でして、決して聴き流せるような軟派な作りではないです。


むしろ、いつもの真面目さは全く変わってないんですが、周りの人たちのフュージョン的な演奏が、リーブマンの硬さをうまくほぐしていて、程よい硬さにしてくれているのがいいんですよ。


スティーヴ・ガッドマーカス・ミラー、ドン・アライアスのリズムセクションのリーブマンへの煽りが実に素晴らしく、コレに応えるようにリーブマンのソプラノ・サックスが気持ちよく鳴りますね。


ココに私はジャズの快感というものを心底感じてしまうんですね。


ジョン・スコフィールドのちょっと屈折したようなギターもリーブマンと相性がよいです。

 

f:id:mclean_chance:20221221215541j:image

新しいタイプのギタリストとして、当時、大変注目を集めたスコフィールド。未だに衰える事を知りません。

 


この、いい具合のハードさ/マイルドさの按配が、本作の魅力でありまして、リーブマンはちょっとキツいなあ。という方にはこの辺りから聴いてみると抵抗が少ないのかもしれません。


自作曲「Paoli's Vision」でのスティーヴ・ガットとドラムを聴いていると、まるでスティーリィ・ダン「aja」を聴いているような錯覚に陥りますが、そこに乗っかってくる錐揉みのように鋭く突き刺さってくる、リーブマンのソプラノ・サックスが気持ちいいのです。


これに続く、「Miss You」は、なんと、ローリング・ストーンズの当時の大ヒット曲です。


リーブマンらしからぬ選曲をしたのは、恐らくはプロデューサーのマイク・マイニエリでしょうけと、コレがまた大当たり。


ウソだと思ったら聴いてみてください。


ジョン・スコフィールドキース・リチャーズになり、リーブマンがミック・ジャガーと化して見事にジャズになっております。


ストーンズの曲をジャズにして名演というのを私は不勉強で知りませんが、コレは成功例と言って良いと思います。


コレがあるので、リーブマン的なシリアスさに満ち満ちた「Chick-Chat」といった、ECM時代にも見られる、「緊迫感がありすぎてついつい黙って座って聴いてしまうジャズ」がピリッとしたアクセントとして効いてくるわけですね。


タイトル曲が妙にリラックスしたテナーを吹いていて、これがまた肩から力が抜けていて私にはとても好ましかったです。


ジョンスコのギターがここでもカッコいいのですね。


全体として、やはり、スティーヴ・ガットのタメの効いたドラムが音楽を夢中にさせすぎない効果が出ていて、演奏面での最大の功労者と言えるでしょう。

 

f:id:mclean_chance:20221221215648j:image

あらゆるジャンルの音楽に起用されたガットの演奏は、ハッキリと彼とわかる

個性が演奏に刻み込まれています。

 


そういえば、マイク・マイニエリは、CTIアート・ファーマー、スティーヴ・ガットと一緒に『ビッグ・ブルース』というとてもよくできたアルバムを作っており、コレが念頭にあったのかもしれませんね。


そういえば、リーブマン、スコフィールド、ミラーは、それぞれに70年代、80年代のマイルズ・デイヴィスのコンボに参加しているメンバーでもありますね(このアルバムの録音時、スコフィールドとミラーはまだマイルズのバンドに加入すること前ですけど)。


もっとこういう硬軟のバランスのよいアルバムがあると、リーブマンをもっと聴きたいと私も思うのですが。

マイク・マイニエリは、プロデューサーとして、かなりの才能がある人だと思います。


なかなかの掘り出し物でした。

 

f:id:mclean_chance:20221221215823j:image

中古レコードでも安価に入手可能です。