mclean-chanceの「Love Cry」

はてなダイアリーで長年書いてきたブログを移籍させました。生暖かく見守りくださいませ。

キースは余りにも多面体ですね!

Keith Jarrett『Fort Yawuh』(impulse!)

 


personnel;

Dewey Redman(ts, cl, musette, maracas),

Keith Jarrett(p, ss, tambourine),

Charlie Haden(b),

Paul Motian(drms, perc),

Danny Johnson(perc)


recorded at Village Vanguard, New York City, on February 24, 1973

 

 

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デューイ・レッドマンがいませんが、この頃のキースの様子を写した写真です。このように、ピアノの弾かないことが結構多いです。

 

 

若い頃のキースの演奏はどれもコレも驚異としかし言いようがないが、それをライヴ盤として記録した、凄まじいアルバムです。


しかも、名門ヴィレッジ・ヴァンガードですね。

 

いわゆる、「アメリカン・カルテット」(と言っても、録音ではゲストが入っている事が多く、厳密にはカルテットとは言えないです)の最初の録音ですが、いきなりヴィレッジ・ヴァンガードでのライヴというのは、実に破天荒です。


が、何よりもすごいのはその演奏内容です。


もともと、チャーリー・ヘイデン、ポール・モーシャンとのトリオの活動が始まっていたんですが、そこにデューイ・レッドマンという「声」を加えた事で、キースの表現は格段に上がりましたね。


内面から湧き上がるエモーションが抑えきれないのが聴き手に伝わってくるようなキースの凄まじい演奏は、演奏メンバー全員に伝わり、とてつもないテンションです。


奇しくも、オーネット・コールマンのグループに在籍経験のある2人を入れているのですが、それは偶然でもなく、演奏にオーネットを感じさせる展開が少なくないです。


冒頭の「Misfits」からして、キース作曲でありながら、完全にオーネットの能天気なメロディ感覚が全開で、フリージャズ寸前まで演奏は突っ込んでいきますが、それを何とか踏みとどまっているような、極めて危ういバランス感覚の演奏ですね。


後年の「スタンダード・トリオ」しか聴いた事がない方には驚きの演奏なのではないでしょうか。


60-70年代のキースの演奏に顕著な、ベタなくらいにキャッチーなゴスペルやフォークロックまんまなメロディ感覚とフリージャズとバップが渾然一体になっているようなところはこの頃の彼の演奏の特徴です。


が、ここまでオーネットへの露骨な傾斜を見せた演奏というのは、なかなかないと思います。


そして、演奏はセシル・テイラー的な過剰な乱れ打ちピアノに。


最後にはピアノを弾かずに、ソプラノサックスでデューイと共にテーマ曲を演奏します。


この普通は組み合わないものが、平然と矛盾なく同居してしまう不思議な感性がキースの真骨頂ですね。


私はスタンダード・トリオをやっている時のキースのアタマの中でなっているのは基本的にこの演奏だと思ってます。


キースという人はピアニストというよりも、アタマのなかの歌を具現化したくてしょうがない人で、それがライブだと追っつかないので、デューイにテナーを吹かせ、更に自分もソプラノを吹いてしまうという事なのでしょうね。


ピアニストである前に、メロディストと言いますか。


LPで言うところのB面の2曲はこの頃のキースによくありがちな曲ですが、「De Drum」の謎の曲想の展開は、全く読めません。

 

プロコフィエフの影響を感じる」という指摘もあるのですが、うーむむむ。。


スムーズに曲があらぬ方向に何度か変化していくんですけども、黙って聴いてると、「アレッ、いつの間にか曲調が変わってる!」という感じで変わっていくので、なかなか油断できないですね。


途中から、ピアノを弾かずにタンバリンを叩いたりもしてますね、キース(笑)


自由ですね、ホント。


この曲でのチャーリー・ヘイデンのベイスラインがジャズというよりもソウルミュージック的で、アコースティック・ベイスでひたすらリフを多用しているのも、コレまでのジャズのあり方とは違いますね。


この圧倒的な演奏を聴いてフト思い出すのは、ヴィレッジ・ヴァンガードでの名演をインパルス!に残した、ジョン・コルトレインです。


コルトレインは1967年に病死しましたが、その後、顔となるミュージシャンをインパルス!はなかなか持てませんでした。


恐らくですが、メセンジャーズ→チャールズ・ロイド→マイルズ・デイヴィスと短期間にとんでもないグループに在籍し、ものすごい演奏を繰り広げるキースに、コルトレインのポジションを継承してもらおうと思ったのではないいでしょうか。


それが本作なのではと。


だからこそ、いきなりヴィレッジ・ヴァンガードでのライヴ盤からキースのグループを出したのでしょうね。


以後、インパルス!でのこのグループでの録音は大作志向となり、遂に『生と死の幻想』に結実していくのですが、それはまたの機会に。


キースは余りにも多面的なミュージシャンなので、ある程度、様々な傾向を持ったアルバムを満遍なく聴く事をオススメします。


特に、1970年代にその傾向が顕著です。


ちなみに、タイトルは、神秘思想家、舞踏家、作曲家のグルジェフ(1866?-1949)の信奉者(後に両者は決裂)であるウスペンスキー(1878-1947)の死後にまとめられた講義録、『第4の道』『The Forth Way)のアナグラムです。


キースはグルジェフの思想に傾倒しているようです。

 

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グルジエフの思想がキースに何をもたらしたのかは、私には最早わかりません。

 

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