mclean-chanceの「Love Cry」

はてなダイアリーで長年書いてきたブログを移籍させました。生暖かく見守りくださいませ。

新作に向けて復習しております!

デイヴィッド・リンチ、マーク・フロスト『ツインピークス

第1部「ローラ殺人事件

 

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本作に特に切れ目はないのですが、便宜上、このように分けさせていただきます。

世紀のド変態映画監督にテレビドラマを作らせよう。という企画がどうして持ち上がったのか、私は今でもよくわからないんですが(笑)、なんと、2017年に「25年後に会いましょう」という、ローラ・パーマーのセリフ通りに続編まで放映が始まってしまった、奇跡のテレビドラマ。

私は、コレでデイヴィッド・リンチが好きになり、映画作品も見ましたし、サントラまで買ってしまい、リンチ作品の音楽を担当するアンジェロ・バダラメンティの大ファンになってしまいました。

「もう映画監督はやりたくない」とインタビューに答えているそうですが、そんなリンチが突然、ネット配信で『ツインピークス』野続編を発表しました。

その経緯はいずれ明らかにされるでしょうけども、やはり、リンチファンとしましては、中学生以来見てなかった本作をもう一度見直して、どんな作品であったかを思い出す必要があると思ったんですね。

この、第1部。というのは、パイロット版(かつてはコレで一応完結させていたんですが、現行版は途中をカットして、テレビドラマに直結するように編集し直してました)と、テレビドラマの第16話までを指します。

人口5万人ほどのワシントン州の田舎町、ツインピークスで起きた、ローラ・パーマーという女子高校生の殺人事件(もう古典的作品といってよいので、かなりネタバレさせてしまいますが、連続殺人事件に発展します)に、FBIの特別捜査官が派遣されます。

 

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ローラ・パーマーの遺体。

 

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 ローラの殺人現場にいながら生存したロネット・ポラスキー。

 

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 クーパー捜査官が録音機に話しかけるシーンはおなじみですね。

 

コレを主人公のデイル・クーパーで、リンチ作品に欠かせない、カイル・マクラクランが演じます。

 

捜査を進めていくと、優等生で皆から慕われていたローラが、実は、コカイン中毒になり、複数の男性と肉体関係がある事が判明し、国境を超えたカナダにある売春宿「片目のジャック」に勤めていた事までわかってきました。

 

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片目のジャックの看板。

 

それだけでなく、町の基幹産業である、パカード製材所をめぐる陰謀やなどなど、一見、平穏である町の裏側で、起こっている悪事が、この事件から次々と判明していきます。

 

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パカード製材所のオーナーである、ジョシー。香港出身。

 

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パカード製材所。

 

このお話しが面白いのは、殺人事件の犯人を見つけるという事だけでなく、コレと直接関係しない話しが(かなりしょうもない話しも含めて)、重層的に起こっており、よって、小さな町のお話であるのに、登場人物が大変膨大になる事ですね。

特に面白いのが、エドとネイディーンの夫婦の話なのですが(笑)、ネイディーンが音のしないカーテンレールの特許の申請を拒否された事にショックを受けて、睡眠薬で自殺未遂を起こすのですが、これから回復してから記憶がなぜか高校生に戻り、異常な怪力になるエピソードですね(このどうでもいい話しを第2部にもまだ引っ張り続けます)。

 

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クーパー捜査官の隣がエドとネイディーン。ローラのお葬式の場面ですね。


また、ツインピークスの保安官のアンディと保安官事務所の事務員のルーシーとの間の妊娠問題も、ずっと引っ張り続け、コレも第1部で解決しません(笑)。

 

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独特のしゃべり方が印象に残るルーシー。

 

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ボケボケキャラですが、なぜか捜査の重要な局面で活躍するアンディ。

 

つまり、殺人事件の解決とともにいろんなエピソードが収斂していかないんです。

コレはリンチとマーク・フロストが意図してやっている事でして、殺人事件は大きなエピソードですけども、それは、ツインピークスという小宇宙の一つのエピソードでしかないんですね。

 

冒頭で遺体で発見されるローラ・パーマー役のシェリル・リンは、従姉妹のマデリーン役でずっと出てくるという、白戸三平もびっくりな役者の使い方も面白いです。

 

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ローラの従姉妹、マデリーン。髪の色が違うだけです。

 

それは第2部以降ますますそうなっていくので、それが一般的なファンを失う事にもなり、不本意な形で終わらざるを得なかったんですが。

基本的にリンチの世界観は統合失調気味で、何かが解決してないという事がよく見られます。

客観的には殺人事件よりも悪辣なパカード製材所などをめぐる争いも別に解決していません(第1部で1番犠牲者が多いのは、この利権を巡る争いであり、町の実力者である、ベンジャミン・ホーンがどう見ても1番の悪党ですね)。

クーパー捜査官が滞在している「グレート・ノーザン・ホテル」で銃で撃たれているんですが、この犯人は第1部では捕まってません。

リンチ作品に親しんでいるとそういうものと思って見ていられるんですけども、ハリウッド映画のように、引いておいた伏線がキレイに収斂されていく作品に慣れていると、リンチの描き方はとても不親切に感じる事でしょう。

それでもこの第1部は、殺人事件という大きなエピソードがハッキリありますので、話しのスジがわかりやすいです。

が、この殺人事件がとりわけリンチテイストが満点で、「チベットの思考法に基づく操作法」やら、肝心なところが大変ブッ飛んでおります。

また、小人や巨人、片腕の男「マイク」、「丸太おばさん」といった、超自然的なキャラクターが、解決に重要な役割を果たしているのが、普通の意味でのユニークさを通り越しております。

 

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丸太おばさん。

 

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 リンチのおじいちゃんフェチが爆発するホテルの従業員。

 

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 特に役に立たないジャコビー博士。ハワイ好き。

 

しかも、犯人は人間ではありませんから(笑)。

クーパーは凄腕の捜査官なのであって、それは本作を見ていただければよくわかる事なんですけども(片目のジャックそこに突然、チベットとか彼が見た夢とか、丸太おばさんのメッセージが捜査のカギとなるところが、本作の尋常でない点であり、コレが他の追随を許さない魅力です。

 

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クーパーと保安官のハリー・S・トルーマン。大統領と同じ名前です。そしてドーナツ(笑)。

 

あと、総監督であるリンチが監督した回は、やはり、他の監督が撮ったものと比べて、クオリティが高く、特に中盤の山場である、クーパーが何者かに撃たれ、この時に初めて巨人が出現するのですが、コレに当たる第8話は、第1部全体の白眉だと思います(第7話のマーク・フロスト監督会がそれに次ぐ素晴らしさです)。

あと、本作というか、リンチ作品を決定的に印象づけている、アンジェロ・バダラメンティの音楽は見事という他ないですね。

 

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本編にもカメオ出演している歌手のジュリー・クルーズが歌う「falling」は、かなり話題になりました。

リンチの作品の特徴にポップとストレンジという二つの要素があると思うのですが、彼の映画がことごとくカルト作品になるのは、そのストレンジの部分が受け付けられないからなのですが、本作は、リンチだけではなく、マーク・フロストという相方がいて、映画よりも表現の制約が強いテレビドラマであったというのが、吉と出たのでしょう。

それによって、ストレンジがほどよくポップと融合して、絶妙なバランスとなり、類稀な傑作となったのではないでしょうか。

それは映画版がかなりキツい作品になってしまったのを考えてもわかります。

本当に久々に見返しましたけども、全く古びてなかったのに改めて驚いてしまいました。

 

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