Ambrose Akinmusire『Owl Song』(Nonsuch)
personnel;
Ambrose Akinmusire(tp),
Bill Frisell(g),
Herlin Riley(drms)
recorded at 25th Street Recording Studio, Oakland, CA, March 7&8, 2023
アンブローズ・アキンムシーレの名前を知ったのは、スティーヴ・コールマンのバンド、「ファイヴ・エレメンツ」のメンバーとしてですが、やがて、彼のもとから自立し、リーダー作を出し、大変な評価を受けるようになります(それに伴って、スティーヴ・コールマンの評価も高まっていったように思います)。
今やジャズ界を代表するトランペッターとなった、アンブローズ・アキンムシーレ。
そんなアキンムシーレがブルーノートからノンサッチに移籍しての本作は、コレまでの作風からあまり想像できないほど、ガラッと変わってしまっていて、驚きますね。
彼よりもベテランのビル・フリゼールのギターとウィントン・マルサリスとの活動で有名なハーリン・ライリーの3人のみのかなり変則的な編成による、かなり内省的な内容のアルバムです。
変則的なトリオである事がもたらすスカスカ感が魅力です。
ノンサッチが出し続けるジャズアルバムは、ものすごく雑駁に言えば、「アメリカーナ」作品を、特に、ビル・フリゼールやブラッド・メルダウを中心に出してきたと言えると思うのですけども、スティーヴ・コールマン門下生であるアキンムシーレがこの動きにかなり積極的に合流していこうとしている事自体が驚きです。
しかも、録音はアキンムシーレの生まれ故郷である、カリフォルニア州オークランドのスタジオで行っているのも、何かコレまでの活動とは一線を画したものを作りたい。という、決意のようなものを感じます。
トランペットをリーダーとする変則トリオというと、デイヴ・ダグラスの「タイニー・ベル・トリオ」を思い出しますけども、より似ているのは、ロン・マイルズが晩年に発表していた『I’m A Man』です。
このアルバムはマイルズのみがホーン奏者で、あとはピアノ、ギター(またしても、フリゼールです)、ベイス、ドラムズという、ジャズとしてはよくある編成ですが、本作と似たような浮遊感を、マイルズのコルネットとフリゼールのギターが作り出しております。
フリゼールの当て所もなく広がるギターは、既に1980年代に確立したものであり、それ自体は新しくはないですが、ここに、ハーリン・ライリーという、ニューオリンズ出身のドラマーの手数が控えめで、重心の低いドラミングが、「地面」と音楽を繋ぎ止めつつ、アキンムシーレの、どこか哀感をたたえた演奏がどこかに飛んでいってしまわないように括り付ける役割を果たしています。
まるで、青空を飛ぶ凧のような演奏であり、最も強調されるのは、具体性のなさ。とでも言いたいような演奏であり、それが一貫した音楽であるように聴こえます。
コレを最早ジャズと呼ぶべきなのか。とすら躊躇してしまいますが、もしかすると、当人たちはそう呼ばれなくても一向に構わないと思っているのかも知れません。
しかし、ジャズというのは、特定の演奏形式や固有の楽器すら存在しない、変転し続けているジャンルですので、コレもまたジャズの新しい変転の姿と見る事もまた可能です。