Joe Lovano『Rush Hour』(Blue Note)
personnel;
Joe Lovano(ts, ss, drms),
Gunther Schuller(cond,composer, arrenger, conductor) etc.(多すぎるので、ネットで調べてください)
recorded at the Power Station, New York City, April 6 & 7, 1994, and June 12, 1994
もしかすると、本作はジョー・ロヴァーノの最高傑作かもしれません。
ロヴァーノは日本とアメリカの評価にものすごい乖離があるジャズメンで、かくいう私も、あの捉えどころのない彼のサックスの演奏は、いいとも悪いとも評価し難いところがありました。
余りにもなんでもできてしまう事が、ロヴァーノを日本に紹介しづらくさせているのかもしれません。
ポール・モーシャン、ビル・ビル・フリゼールと組んだ変則的なトリオが何枚かアルバムを出してますけども、コレはこのトリオのコンセプトが素晴らしく、ロヴァーノのサックスはとても合っているんですよ。
断続的に出された変則トリオの第1作。
他に何枚か彼のリーダー作を聴いてみたんですが、正直、どこがいいのかわからなかった。
が、たまたま、彼がエリントン/ストレイホーンの曲に取り組んでいるアルバムがある事を知り、Amazonで注文し、どんなものなのか確認のために購入して聴いてみたんです(一応、エリントンを研鑽している者としてはそれはyoutubeで手軽に聴くという方法はやめました)。
このアルバム、1994年の4月6, 7日に主にガンサー・シュラー指揮、アレンジによる、ソプラノのヴォイスも加わった、かなり変わった編成のオーケストラをバックに演奏したものと、同年6月12日の、多重録音演奏を含めた、ロヴァーノとヴォーカルのジュディ・シルヴァーノ、もしくはロヴァーノのみの演奏による実験な録音(この日のみ、アレンジはロヴァーノ)を加えた大作でして、なんと、ロヴァーノが自らプロデュースして製作されています。
ガンサー・シュラーとジョー・ロヴァーノ。
もしかすると、彼のアルバムの中で最大のバジェットで作られたものかもしれません。
曲目は先程述べたエリントンとストレイホーン以外に、モンク、オーネット、ミンガスにシュラー作曲、スタンダード、自作曲を加えたものですが、コレらが実に渾然一体となっている、コンセプト・アルバムなのです。
それ自体が、エリントンが1960年代から本格的に取り組む事となる、組曲とも重なるのですけども、本作は、モダンジャズにおける、デューク・エリントンへの大編成を用いたアルバムとしての最高峰の1つと言ってもよい傑作です。
シュラーの不穏なオーケストレーションと、「キチンとしたテクニックを身につけた、ポール・ゴンザルベス」を演じるロヴァーノの演奏、とりわけテナーがこれほどまでに相性がいいのか。と心底驚きました。
また、ガンサー・シュラーという人も、どう評価していいのかよくわからない典型みたいな人として認識していた私の固定観念を見事に打ち砕いてくれた、素晴らしい仕事ぶりです。
11分を超える大曲「Headin’ Out, Movin’ In」に続くラストに、ロヴァーノのテナーのソロ演奏による「Chelsea Bridge」というご褒美がついているのも素晴らしいですね。
ジョー・ヘンダーソンによる、ストレイホーン作品集『Rush Life』のラストもテナーの独演ですが、コレと双璧でしょう。
ジョーヘンの1990年代の傑作。
このアルバムを誉めている文章に私はお目にかかった事がないのですが、まさか、こんなすごい隠れ名盤を発見する事になるとは、私自身が驚いております。
そして、こんな素晴らしいアルバムが誰にも知られる事なく埋もれたままになっている事は、なんとも心苦しく、ここに紹介させていただきます。
追補
そういえば、チャールズ・ミンガスの傑作『Pre-Bird』にも、ガンサー・シュラーが参加していましたよね。
ロヴァーノがシュラーを起用したのは、この事実に基づいているのではないでしょうか。