Ray Anderson, Han Bennink & Christy Daran『Cheer Up』(hat ART)
Personnel;
Ray Anderson(tb, tuba),
Christy Doran(g),
Han Bennink(drms)
recorded at Schulhaus Oberengstringen, Zürich, Switzerland in March 15,16 1995
スイスのチューリッヒにおける、1995年のライヴ録音ですね。
ハットアートというスイスのインディレーベルですし、編成もかなり変則的で、演奏もフリーなグシャグシャな事をやってるのかな?と思ったんですが、思ったよりもずっと聴きやすいです。
このレーベルから出ている、コレまた変則的なトリオである、「タイニー・ベル・トリオ」という、デイヴ・ダグラスが1990年代にやっていた演奏なんかを思い出しました。
デイヴ・ダグラス率いる「タイニー・ベル・トリオ」の2枚目。現行版は、ジャケットが異なります。
かなりスカスカはするんですけども、それは、彼らの狙い通りでして、超絶技巧トロンボーン奏者が自由奔放にソロを取るために作ったスペースなんですよね。
それをしっかりと支えるのは、2019年現在も、相棒のミシャ・メンゲルベルグが亡くなった後もICPオーケストラを率いている、大ベテランのハン・ベニンク。
2m近い大巨人、ハン・ベニンク。
トロンボーンというのは、スライドを使って音程を作っているという構造上の問題があって、そんなに機能的にできてないんですよ。
ですから、ソロをカッコよく決める事に主眼を置いているジャズでは、どうしても地味な存在となり、ビックバンドであってもスモール・コンボであっても、ソロを取ることよりも、低音を支えるためのアンサンブル要因として起用される事が多いです。
例外的に、バップでは、JJジョンソンという、あまりにもうますぎる事が唯一の欠点というトロンボーン奏者が軽々とパップを演奏しまくっていましたが、彼についづいするようなトロンボーン奏者は、まあ、バップでは彼の相棒であったカイ・ヴィンディンクくらいなモノです。
フリージャズで圧倒的な技法を駆使していた、アルバート・マンゲルスドルフがほぼ一人で気を吐いていましたが、彼の後に続く人はまあ、皆無といってよいです。
そんな、地味な世界に、突如として現れたのが、このレイ・アンダーソンなんです。
本作ではチューバも吹いている、レイ・アンダーソン。
彼は、前述の2人ともまた全然タイプが違って、比較的オーソドックスなスタイルからフリーまでを一瞬で行ったり来たりできるタイプでして、それでいて、難解など微塵もなく、それこそ、ローランド・カークなんかに近いファンキーさが濃厚な演奏なんです。
アヴァンギャルドとポップが全く違和感なく同居しているという、ほとんど稀有な存在なんです。
本作もそんな彼の個性が十全に発揮されたアルバムでして、こんなに自由闊達にトロンボーンというモノは演奏できるモノなのか?ととになかく呆れるばかりです。
ドラムのハン・ベニンクは、デレク・ベイリーなどの即興演奏家とも共演するような人ですけども、彼のホームグラウンドとも言える、ICPオーケストラは、ユーモアとシリアスが絶妙なバランスで同居した、非常に優れたライヴビックバンドでして、その意味でレイとの相性はバツグンです。
この2人と比べるとやや個性に欠けますが、いろんな変な音を繰り出してこの2人を支える事に徹している、クリスティ・ドランのギーもなかなかよいです。
そういえば、ハットアートといえば、ジョン・ゾーンのコレまた変則的なトリオで『News for Lulu』という傑作があるんですけも、多分、このアルバムの成功があって、本作のようなアルバムが作られたのでしょうね。
アルトサックス、トロンボーン、ギターという、「ジミー・ジュフリー3」を思わせる変わった編成でハード・バップを演奏するという、ユニークな作品です。
この3作、すべてオススメで、比較的入手しやすいと思いますので、中古店やインターネットで探してみてください。