Gil Evans Orchestra『Plays The Music of Jimi Hendrix』(RCA/Legacy)
personnel;
Gil Evans(cond, arr, p?),
Hannibal Marvin Peterson(tp, vo),
Lew Soloff(tp,flh),
Peter Gordon(frh),
Peter Levin(frh, synthesizer),
Tom Malone(tb, fl, synthesizer, b, arr),
Howard Johnson(tuba, cl, b-cl,arr),
David Sanborn(as, ss),
Billy Harper(ts, fl),
Trevor Koehler(ts, ss, arr),
Keith Loving, John Abercrombie,
Ryo Kawasaki(g),
David Horowitz(el-p, Synthesizer, arr),
Micheal Moore, Don Pate(b),
Warren Smith Jr.(chimes, perc, marimba, arr),
Bruce Ditmas(drms),
Susan Evans(congas, drms)
Recorded at RCA Studio B, New York City, June 11, 12, 13, 1974
マイルスとのコラボの録音中のギル・エヴァンス。実はカナダ出身です。
なんで、ギル・エヴァンスがジミ・ヘンドリクスの曲をやってるのか?と奇異に思う方もいるかもしれませんが、『マイルス自叙伝』なんかを読みますと、マイルスやギル・エヴァンスとジミヘンが共演する予定があったらしいです。
しかし、1970年のジミの休止によって実現できなかったんですね。
なので、ジミが亡くなってすでに4年経ってからではありますが、彼の追悼の意味があるのだと思います。
説明不要の大天才、ジミ・ヘンドリクス。
また、奇しくもデューク・エリントン が1974年5月24日に亡くなっている後の発売になります。
タイトルを見ると、全部ギルがアレンジしていそうですけども、彼がアレンジしたのは、「Medley:Castle Made of Sand / Foxy Lady」の前半と(後半はウォーレン・スミス Jr.)、「Up from The Skies」のみで、他の5曲はトム・マローン、デイヴィッド・ホロヴィッツ、ハワード・ジョンソン、トレヴァー・ケーラーによるアレンジです。
パーソナルを見ておわかりのように、およそ、ジャズのビックバンドとは思えない、かなりエクセントリックなもので、フレンチ・ホルンやチューバという、あまりモダンジャズではお目にかからない楽器がホーンセクションにいますし、持ち替えもすごいです。
また、聴いてて誰なのか特定不能のシンセサイザー奏者がおり、ギターもおり、ギターが3人、ベイスが2人います(笑)。
一応、アルバムのライナーノーツに書いているものに基本的に従い、耳で聴いて明らかに誤りのものは訂正し(ウォーレン・スミスJr.がヴァイヴラフォンを演奏しているというのは明らかに間違いなので訂正しました)、抜けているものは付け足しました(ルー・ソロフのフリューゲル・ホーン)。
しかし、ホントにコレで合っているのかは、恐らくもう誰にもわからないでしょうね。
演奏を聴くとおわかりですが、ジミの曲をやっているので、あんまり音の分離が良くないですから、ベイスがホントに2人とも演奏しているのかとか、ギターが全員演奏しているトラックは実は1つもない可能性もあり得ます。
が、もはや特定は現在ソニーが所有する資料でも無理なのではないでしょうか。
ギルが作り出す恐ろしく濃密では複雑なアンサンブルを楽理的に説明する能力は私にはありませんが、このスタジオ録音で聴いても、彼のアンサンブルというのは、永遠の未完成美としか言いようがありません。
音楽でなくてもいいですけども、表現というものは、その時点での一応の結論というものを出すわけなんですけども、そういう事に興味がなくように聞こえますね。
その瞬間の衝撃みたいな事の方がギルにとっては大切でして、一旦、綿密に組み上げたものを当日になって、やっぱり考えが変わってこうする。みたいな事が日常というか。
その緻密さとアナーキーさという、相矛盾するものが同居しているところが、ギル・エヴァンス・オーケストラの醍醐味ですので、あまり録音に向いている音楽ではないんですね。
音源のみで聴くと、やたらと小難しかったり、なんでこんなにぐちゃぐちゃなのか?という事にばかりアタマがいってしまって、音楽に集中できないんですけども、youtubeなどで映像が結構上がっているので、どれでもご覧になって見るとわかりますけども、凄腕能力集団がギルのなんだかほにゃほにゃしたコンダクトにしたがって演奏する様子が実にスリリングで実に面白いです。
本作はすべてジミヘンの曲ばかりですから、誰もがよく知っているので、ある意味、スタンダード曲を聴くような感じで、どうアレンジしていくのか?に集中して聴けるので、映像なしでも充分楽しみやすいので、ギル・エヴァンスを聴いた事のない人には特にオススメです。
一曲目「Angel」はデイヴィッド・サンボーンが、エリントン ・オーケストラのジョニー・ホッジスさながら、泣きのアルトを吹きまくるのは、納得の演奏です。
サンボーンはフュージョンの人みたいな扱いですが、もともとはとても硬派な人でした。あまりにも歌心がありすぎて、オーバーグラウンドに引き上げられてしまったのでしょう。
ギルの基本は金管であの独特な柔らかいくも不穏なアンサンブルを作り出し超個性的なソリストが歌いまくるという構図がものすごく好きで、それはマイルスとのコラボから1970年代にエレクトリック化して以降も一貫してます。
初心者オススメとは言え、ギルですから、相当にジャズを聴き込んだ人にも飽きがこない内容です。
個人的には、一番地味な演奏なのですが、「Up from The Sky」の浮遊感のあるアンサンブルがやっぱりすごいですね。
先日惜しくも亡くなりました、川崎燎のギターソロがフィーチャーされております。
川崎燎以外にも、菊地雅章、大野俊三など、ギルのオーケストラには日本人が在籍していました。
長年、ギルのオーケストラのメンバーだったハワード・ジョンソンのものすごいチューバのソロが聴けるのは、「Voodoo Chile」です。
ハワード・ジョンソンは、チューバ、ベイス・クラリネット、クラリネットなどをマルチに弾きこなす才人でしたが、2021年に亡くなりました。
現行のCDはオリジナルの7曲にボーナストラックがついてまして、「Little Wing」というDerek and The Dominoes でも有名な男泣きの名演が追加されており、コレまたオススメです。
ヴォーカルを取るのは、ハンニバル・マーヴィン・ピーターソンです。