mclean-chanceの「Love Cry」

はてなダイアリーで長年書いてきたブログを移籍させました。生暖かく見守りくださいませ。

ハードバップとは歌謡バップなのではないのか?と思わざるを得ない小傑作。

Mal Waldron『Mal/2』(prestige)

 


Personnel;

Bill Hardman or Idrees Sulieman(tp),

Jackie McLean or Sahib Shihab(as),

John Coltrane(ts),

Mal Waldron(p), Julian Euell(b),

Art Taylor or Ed Thigpen(drms)

 


recorded at Van Gelder Studio, Hackensack, New Jersey, April 19 and May 17, 1957

 

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マルの写真はなぜかいいものが多いですね。

 


本作はは2日の別々のセッションを合わせて1つのアルバムにするという、まあ、プレスティッジらしいイージーな作り方なんですけども、演奏それ自体はどちらの日も素晴らしいので、結局、ハードバップの快作です。


1957年4月19日のセッション(A)が、ハードマン(tp)、マクリーン(as)、コルトレイン(ts)、マル(p)、ユーエル(b)、テイラー(drms)となり、同年の5月17日のセッション(B)が、シュリーマン(tp)、シハブ(as)、コルトレイン(ts)、マル(p)、ユーエル、(b)、シグペン(drms)となります。


CDとなって2曲のボーナストラックがつきましたが、前者のセッションが入ってます。


オリジナルの曲順は、


1.From This Moment on(B)

2.J.M.’s Dream Doll(A)

3.The Way You Look Tonight(B)

4.One by One(B)

5.Don’t Explain(A)

6.Potpourri(A)


であり、2つのセッションが混ぜられているんですが、OJCで作られたCDは、最初に(A)のセッションが6,2,5とならび、次にボーナストラックが2曲つき、(B)のセッションが、3,2,4と並んでいてまして、要するに(A)と(B)のセッションを完全に分けて並べています。

 


ジャズはLPが発売されてから、ずっとアルバム思考で作られていましたから、曲順は考えられて作っているんです。


しかし、このCDはもうアルバムではなくなって、2つのセッションを並べただけになっているんですよ(笑)


ボーナストラックを最後にくっつけるとかでしたら、まだいいんですが曲順を完全に変えてしまっては、もうコレは作品としてめちゃくちゃです。

 

ですので、コレはパソコンで取り込んで、もとの曲順に並べ替えて再生した方がよいですね。


LPで聴く場合は、この問題はありません。


さて(笑)。


マルは1950年代にリーダー作よりもとにかくサイドメンとしてプレスティッジに起用され、とりわけ、ジャッキー・マクリーンと相性が良かった人ですけども、やはり、本作でもマクリーンが参加しております。

 

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マクリーン(左)とコルトレイン(右)

 


この2人が醸し出す、異様なまでの薄暗さ、黄昏感は、ハードバップでも屈指のものがあり、本作でもそれは発揮されてます。


「J.M.’s Dream Doll」におけるマクリーンとビル・ハードマン、マルによって醸し出される不健康までに太陽を拒否するような音楽は、テクニックの巧拙を超えたところに存在する音楽で、何とはなく出しているマクリーンのアルトの音それ自体にもう痺れてしまうんですね。

 

個人的には「Don’t Exprain」の全体が啜り泣いているような、歌謡曲スレスレの世界がたまらなく好きです。


こういう体質になってしまうと、もう完全にハードバップ中毒でありまして、コレにならない人は、多分、ジャズという音楽にのめり込む事はないのでしょう。


マルの、同じところをグルグルとたどたどしく旋回しているような不思議なピアノは相変わらずで、こういうピアノは誰にも継承されていないです。


現在の音大で学ぶようなテクニックからは、間違いなく除外されているものだと思います。


コルトレインは相変わらず元気ですが(ホントに譜面に起こして完コピする事がテナーサックスを学ぶ者の必須課題みたいな見事な演奏です)、決してぶち壊すような事はせず、あくまでもハードバップのサイドメンに徹しています。


こういうハードバップのセッションに徹しているコルトレインはプレスティッジにたくさんありまして、どれも素晴らしいです。


一方のサヒブもマクリーンとは違った、なんだかつんのめったような、スムースとはいえないアルトを吹いているのがコレまた楽しく、ココを楽しめるのかどうかぎハードバップ好きになるのか否かの分岐点のような気がします。


歴史的には何ら重要でもないし、ハードバップの傑作でもないですが、ハードバップというものの、標準的な水準というのは、こういうプレスティッジが濫作していたアルバムで聴くことができ、それは、モダンジャズの短い「楽園の日々」だったのだなあ。と思ってしまいます。

 

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