mclean-chanceの「Love Cry」

はてなダイアリーで長年書いてきたブログを移籍させました。生暖かく見守りくださいませ。

知られざるピアニストがブルーノートに遺した全録音!

Herbie Nichols『The Complete Blue Note Recording』(Blue Note)

 

all sessions recorded at Rudy van Gelder Studio, Hackensack, New Jersey

 


May 6, 1955

Herbie Nichols(p), Al McKibbon(b),

Art Blakey(drms)

 


May 13, 1955

Nichols(p), McKibbon(b), Blakey(drms)

 


August 1, 1955

Nichols(p), McKibbon(b),

Max Roach(drms)

 


August 7, 1955

Nichols(p), McKibbon(b), Roach(drms)

 


April 19, 1956

Nichols(p), Teddy Korick(b), Max Roach(drms)

 


本作は、生前、そのユニークな音楽性を理解される事なく、42歳の若さで亡くなった、ハービー・ニコルズ(1919-1963)がブルーノートに遺した、1955年から56年にかけての計5回のセッションこ録音の全てです。

 

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白血病で亡くなった、ハービー・ニコルズ。

 


そこから、生前に『Herbie Nichols vol.1』、『同 vol.2』、『Herbie Nichols Trio』という10インチアルバム2枚、12インチアルバム1枚が作られましたが、当時はほとんど評判にならなかったようです。

 

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現在はどれも入手可能です。

 


経済的な理由から、アーネット・コブやレックス・スチュアート、イリノイ・ジャケーソニー・スティットといった、芸風とはあまり合わないミュージシャンと共演していました。


仲の良かったセロニアス・モンクを褒める記事を、まだそれほど知られていない頃に雑誌に寄稿したりなどしていたようです。


1919年という事は、世代的にはチャーリー・パーカーセロニアス・モンクといったビ・バップど真ん中なのですが、彼の芸風は、ビパップという枠には収まらない、極めてユニークかつ独特なスタイルであり、それが彼の不幸でした。


セロニアス・モンクがようやく1950年代の半ばに評価が高まってきた事によって、ニコルズのユニークさも理解されるのか?と、ブルーノートのアルフレッド・ライオンは考えたのか、不遇なニコルズに録音の機会を与え、アルバムも発売日したのですが、それが結局、ブルーノートでの最後の録音となりました(あとは、ベツレヘムからアルバムが一枚でたのみです)。


本作はそんなニコルズのブルーノートでの全録音をセッション毎にまとめたCD3枚組なのですが、一曲を除き、すべて自作曲を演奏している事からわかるように、そのユニークなスタイルのピアノは、コレまたユニークとしか言いようのない作曲と深く結びついています。


そういう所が、1960年代のブルーノートを代表するピアニスト、アンドリュー・ヒルと似てます。

 

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ですので、ニコルズが白血病で亡くなる事がなく、その後も生き続けていたら、生前の評価はかなり変わっていたのでは。と思うのですが。。


それはさておき、ニコルズのユニークさというのは、どういうところにあるのか?という事に移していきますが、ジャズピアニストは大きく分けて「ヨコの系譜」と「タテの系譜」に分かれると思うんです。


「ヨコの系譜」とは、アート・テイタムオスカー・ピーターソンのような、メロディ、即ち、五線譜の横の流れを重視した芸風ですね。


コレに対して、「タテの系譜」とは、デューク・エリントンセロニアス・モンクらアンドリュー・ヒルのようなブロックコードを強調する、いわば、五線譜のタテを意識させる系譜でして、ニコルズはこの系譜に属します。

 

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ハービー・ニコルズに影響を受けたピアニストの代表格がミシャ・メンゲルベルグです。

 


その、「ねじれた鼻歌」(そんなものはないのですが・笑)をそのまんま曲にして、気軽に弾いているようなメロディー感覚は、シリアスなものが重視された1960年代の先鋭的なジャズの世界ではなく、1980年代の軽やかに前衛とポップスを横断していくような感性に近く、ミシャ・メンゲルベルグやポール・モーシャン、ダック・ベイカーという、やはり、ユニークなミュージシャンによって注目されていくのは、ある意味必然なのかもしれません。


「2300 Skidoo」や「Blue Chopsticks」といった人を食ったようなタイトルそのまんまの「ねじれ/よじれ鼻歌」は彼のプレイスタイルと一体です。


この作曲のユニークさが、現在のジャズミュージシャンにいい刺激を与えるらしく、彼の曲を演奏するジャズメンは上記以外にもいます。

 

 本作は、3つのアルバムに収録されなかった曲はいいとして、別テイクが連続して収録されている点が今となっては煩わしいですが、パソコン上でオリジナルのアルバムをプレイリスト機能を使って作成したり、別テイクをすべて削除して聴く事が現在は可能ですから、この完全収録盤を1つ購入しておけば、全て事足りるので、Amazonなどで注文する事をオススメします。  

 

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現在は入手が難しいかもしれません。