mclean-chanceの「Love Cry」

はてなダイアリーで長年書いてきたブログを移籍させました。生暖かく見守りくださいませ。

もしかすると、私たちがジャズのスタンダードとして考えるのは案外この演奏なのかもしれません。

Steps『Smokin’ In The Pit』(Better Days)

 

personnel ;

Micheal Brecker(ts), Mike Mainieri(vib),

Don Grolnick(p), Eddie Gomez(b),

Steve Gadd(drms),

Kakumi Watanabe(g)


recorded at Roppongi Pit Inn, Tokyo, December 14-16, 1980

 


マイク・マエニエリを中心に結成されたステップスによる、今はなき「六本木ビットイン」での1980年のライヴの模様を録音したものですが、この頃から、フュージョンで活躍していた人々がこぞってジャズの演奏に参加し始め、だんだんとジャズとフュージョンの境界線が曖昧になっていったように思います。

 

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本作のプロデューサーは、マイニエリです。

 


まあ、この境界線を曖昧にしていたのは、ウェザー例えば、リポートとか、ジョニ・ミッチェルがそのウェザー・リポートのメンバーを起用してアルバムを次々と作成したりした事で既に始まっていたし(ステップスのメンバーであるブレッカーはジョニ・ミッチェルのライヴ盤に参加してます)、CTIの諸作品がそういうものを促していた気がします。


本作はそういう1970年代のそういった動きの中での、腕っこきのみが集結したグループであり、その彼らが時にジャズのスタンダードすら交えつつ、ものすごく高度なジャズを余裕綽綽に成し遂げてしまうライヴ盤を作ってしまうという事実に、1950年代からのハードバップを愛するジャスファンの一部はついていけなかった事でしょう。


だが、困った事に、ジャズというのは、演奏形態とか、ある音楽的な様式を指すジャンルではなく、むしろ、周囲の音楽を敏感に反応して、貪欲にそれを取り込み、まるでウィルスが変異していくように変わり、そして、増殖していくような音楽なのです。


50-60年代は比較的、それがジャズ内部でのみ起きていたという、巨視的に見れば、実は特別な時代だったのかもしれません。


故に、最も「ジャズです!」という自己主張の強いし時代であったともいえます。


しかし、それが1970年代に漸次横滑りするように、多元化が始まり、かつてのような分類法が通用しなくなったわけです。


そういう時代にキャリアを始めざるを得なかった、エディ・ゴメス以外のメンバーにとってのジャズとは、べき論として存在していなかったのだと思います。


そんな彼らがそれぞれの方法や活動を通じて獲得した経験値を寄せ集め、改めて「ジャズ」に取り組んだのが、ステップスなのでしょう。


キース・ジャレット、ギャリー・ピーコク、ジャック・ディジョネットによるトリオも、よくよく考えると、ステップスと同じ文脈に考えられるかもしれません。


ここでの演奏の白熱は、明らかにジャズの持つ緊張感でありますし、故に長年ビル・エヴァンズと活動を共にしてきた、ベテランのエディ・ゴメスを敢えてメンバーに迎えてグループを結成しているのでしょう。

 

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ビル・エヴァンズ・トリオ在籍時の、エディ・ゴメス。


事実、マイケル・ブレッカーやスティーヴ・ガットはこの後、ジャズミュージシャンとしての評価が確実に上がっていき、当時は異端的な立ち位置でしたが、今は、ジャズの王道的なポジションにあるといってよいわけです。

 

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2007年に惜しくも亡くなってしまったマイケル・ブレッカーは、今もって現代のテナーサックスの演奏の基本です。


そして、現在の更にものすごいジャズと他ジャンルの越境ぶりは、ある意味で、「第二期のフュージョン」とも言えるわけで、その意味で現在のジャズの元祖は、案外、ステップスあたりなのかもしれません。


当時の若手のスターであった、渡辺香津美が一曲のみゲスト参加しています。

 

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本作は日本がオリジナルなのです!