mclean-chanceの「Love Cry」

はてなダイアリーで長年書いてきたブログを移籍させました。生暖かく見守りくださいませ。

灼熱の組曲入りの名ライヴ盤です!

Oliver Nelson『Swiss Suite』(Flying Dutchman)

 

personnel;

Oliver Nelson(composer, arranger, conductor, as),

Charles Toliver(tp,flh),

Danny Moore, Rich Cole, Bernt Steam,

Harry Beckett(tp),

Buddy Baker, Bertil Standberg,

Donald Beightol, C.J. Shibley, Monte Holz,

John Thomas(tb), Jim Nissen(btb),

Eddie Cleanhead Vinson(as, truck 1 only),

Jasper Thilo, Ozren Depolo(as),

Gato Barbieri(ts,truck 1 only),

Micheal Urbaniak, Bob Sydor(ts),

Steve Stevenson(bs),

Stanley Cowell(p),

Victor Gaskin, Hugo Rasmussen(b),

Bernard Purdie(drms),

Bosko Petrovič(drms, darabukka?),

Nana Vasconcelos(perc),

Sonny Morgan(congas)

 

recorded at Montreux Jazz Festival, Montreux, Switzerland, June 18, 1971

 

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オリヴァー・ネルソン。

 

「スイス・スイート」と書いてしまうと、昭和生まれの者には、「ああ、あのスーパーマーケットのパンコーナーに売ってるロールケーキね」と、つい、言ってしまいそうになりますが、本作のA面すべてを使って展開する組曲は、全くスイート感など、なく、むしろ、舌に電極が接続されるような激烈な味わいなのですね。

 

しかも、この組曲は、モントルー・ジャズ祭に招待された事にちなんで、ネルソンが多忙な生活の合間に(ネルソンは、この頃は、ジャズの人。というよりも映画音楽の人、要するに、作編曲家として、並のジャズミュージシャンよりも遥かに稼いでいたと思います)、かなりの精魂を傾けて書き上げたもので、本作はいわば世界初演を記録したものなんです。

 

しかも、彼を召喚したのは、インパルス!レーベルを1960年代に盛り上げまくった、ボブ・シールが、自らのレーベル、「フライング・ダッチマン」を立ち上げ、そのレーベル音楽をジャズファンに伝えるための時間が設けられ、そこでの演奏という事だったんです。

 

いやー、当時はまだまだジャスがこんなに熱かったですねえ、羨ましい…

 

ネルソンは、1940年代から活動し、ベイシーやエリントン楽団にも短期間参加しつつ、モダンジャズの作曲、編曲、サキソフォン(主にアルトサックス)で活躍しましたが、その多才さ器用さが買われたのか、次第にテレビや映画の音楽の仕事が忙しくなってしまい、ジャズの活動がだんだんと縮小していきました。


そんな彼に声をかける辺り、ボブ・シールのプロデューサーとしての眼力(耳の力?)は、さすがと言わざるを得ません。


どういう経緯でこのメンツが集まったのか、私は寡聞にしてわかりませんが、驚くのは、ナナ・ヴァスコンセロス、ガート・バルビエリという外国人勢とともに、エディ・クリーンヘッド・ヴィンソンというベテランと、チャールズ・トリヴァー、スタンリー・カウエルという新進気鋭のジャズミュージシャン、そして、バーナード・パーディという、当時のソウル界を代表するようなドラマーが同居している事です。

 

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ラストタンゴ・イン・パリ』のサントラでもおなじみのガート・バルビエリ。

 

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チャールズ・トリヴァーとスタンリー・カウエル。


ヨーロッパ勢のミュージシャンが多く参加しているのは、恐らくは現地で合流参加しているものと思われます。


この、臨時編成と思しきオーケストラを才人ネルソンは見事にコンダクトし、なんと、B面に当たる曲では、ネルソンみずからソロを取る大活躍ぶりですが、なんと言ってもタイトル曲でエモーショナルを大爆発されているガート・バルビエリのテナーのソロがやはり1番印象に残りますね。


ガートはある意味、この唯一無二エモーショナルなソロで1970年代のジャズに大暴れした人ですが、ライヴでますます燃え上がる彼のテナーは見事にフィーチャーされています。


彼のソロを受けての、大ベテラン、クリーンヘッド・ヴィンソンのアルトのソロがこれまた素晴らしいですね。


本作の陰の功労賞はこのヴィンソンでしょう。

 

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エディ・ヴィンソン。

 

チャールズ・トリヴァーと双頭ビックバンドを結成したスティーヴ・カウエルのピアノも見事です


この素晴らしいソロ演奏を支えるオーケストラの演奏の基本は、パーカッションが多めですが、さほどラテン感はなく、どこまでも黒々としたブルースが強調されたものです。


このような灼熱のライヴを繰り広げながらも、ネルソンは、1975年に、過労が原因と思われる心臓発作で急死してしまいます。


どうも、ビックバンドはモダンジャズファンには、敬遠されがちですが、本作のようなメリハリの効いたソロと分厚いアンサンブルは、普段はスモールコンボしか聴かない方にもオススメします。

 

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ジャケットが今一つ冴えませんが、内容はピカイチです!