mclean-chanceの「Love Cry」

はてなダイアリーで長年書いてきたブログを移籍させました。生暖かく見守りくださいませ。

マクリーンの1960年代のアルバムを聴いてみる。

Jackie McLean『Presenting…Jackie McLean』(ad lib→jubilee)『Let Freedom Ring』『It’s Time !』『New and Old Gospel』(Blue Note)『’Bout Soul』(Blue Note)

 


『Pesenting…Jackie McLean

personnel;

Jackie McLean(as), Donald Byrd(tp),

Mal Waldron(p), Doug Watkins(b),

Ronald Tucker(drm)

recorded at Van Gelder Studio, Hackensack,

New Jersey, in October 21, 1955

 


『Let Freedom Ring』

personnel;

Jackie McLean (as), Walter Davis, Jr.(p),

Herbie Lewis(b), Billy Higgins(drms)

recorded at Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, New Jersey, in March 19, 1962

 


『It’s Time !』

personnel;

Jackie McLean (as), Charles Tolliver(tp),

Harbie Hancock(p), Cecil McBee(b),

Roy Haynes(drms)

recorded at Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, New Jersey, in August 5, 1964

 

『New and Old Gospel』

personnel;

Jackie McLean(as), Ornette Coleman(tp),

LaMont Johnson(p), Scotty Holt(b),

Billy Higgins(drms)

recorded at Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, New Jersey, in March 24, 1967

 

『’Bout Soul』

personnel;

Jackie McLean (as), Woody Shaw(tp),

Graham Monchur 3rd(tb),

LaMont Johnson(p), Scotty Holt(b),

Rashid Ali(drms), Barbara Scott(vo)

recorded at Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, New Jersey, in September 8, 1967

 

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マクリーンのアルトの音色は唯一無二の魅力です!


マクリーンの魅力って、何なのだろう?と改めて考えてみるに、それは結局のところ、「音の魅力」に尽きるんではないだろうか。という結論に至ります。  

 

その「音」って何なのか?をもう少し丁寧に説明してしてみますと、あの、どこか切羽詰まったような独特なアルトの鳴り方。としか言いようのない、あのアナーキーなアルトの音なんですよね。


この音が聞こえてくれば、もう何もいらない。と言いますか。


実際、マクリーンはリーダーでもサイドでも、彼とハッキリと識別できる音が生涯にわたって出ているのである。


1950年代のマクリーンのアルトはやや技術的に問題があり(本人もインタビューなどで、「いや〜、あの頃は家族を養うので精一杯でとにかく録音しまくったんだよね」と言った趣旨の事を答えていますが、ブルーノートと契約して以降の彼の演奏はかなり技術的に安定してきていて、実はかなり努力していたのが、聴いていてわかるんです。


で、この努力をどうやら生涯にわたってやっていたようで、晩年になっても、あの音が全く衰える事なく鳴っているのです。


ここに挙げた5枚のアルバムも、特に深い意味はないんですが、最初のアルバムはリーダー作として最初期のもので、もともとはアド・リブというマイナーレーベルから出たものが、コレまたマイナーレーベルのジュビリーから再発したため、ジャケットが変わってしまったので、2種類ジャケットがあります。


もう、マクリーン特有の泣きが完成されていて、たまらないですね。


サイドメンも充実していて、その後、何度も共演する事になる、ドナルド・バードマル・ウォルドロンがいます。


1950年代のマクリーンはハードバップという枠組みの中で見事に輝いていて、リーダーとかサイドとか特に関係なく彼が入っていたら、もう最高みたいな所がジャズファンにはありますね。


別にコレが彼の最高傑作とか、そんな事はなくて、プレスティッジ/ニュージャズのから出ているアルバムは、リーダー、サイドを問わず、ハードバップの快演ばかりです。


マクリーンの活動期間は大変長いですが、結局、ファンはこの1950年代に戻ってきてしまいますね。


とはいえ、1959年からのブルーノート期もしばらくはハードバップ時代が続いていて、コレもまたリーダー、サイドを問わずに名演ばかりで困りますが、コレらは全部飛ばしまして(笑)、一挙にあまり語られないマクリーンの話に移りましょうか。


モダンジャズの楽園」であった、ハードバップも、毎度毎度やられますと、どんなに素晴らしくても聴き手は飽きが来てしまうという、厳しい問題が出てきます。


どうしても演奏がマンネリズムになるんですね。


そこで一部の先鋭的なミュージシャンたちが1950年代中ごろから(早い人は、ビバップの頃からですが)、ビパップを更に発展させていこうという、あるいは、バップを介さないジャズの発展を志向する動きが出てきました。


マクリーンはその打破されるべき、対象そのもののど真ん中だったんですが、なんと、彼自身はこの動きに賛同してしていました。


とはいえ、マクリーンの身体には、根っから染み込んだバップがそう易々と脱却などできようはずもないですし、ホイホイとスタイルを容易に変えられるような器用な人ではないですので、マクリーン自身はそんなに変化してません。


1962年録音の『Let Freedom Ring』は、タイトルこそ、公民権運動の高まりを思わせますが、一曲目はモンク「Brilliant Corners」を思わせる曲想の自作曲の次に、バド・パウエルの名演で知られるスタンダード曲でむせび泣くなど、 所々にフリーキーなアルトのサウンドが入るとはいえ、あくまでもやっている事はバードバップです。


しかし、1964年の『It’s Time!』になると、メンバーがまるっきり変わり、当時、新進気鋭のトランペッターであった、チャールズ・トリヴァーを加入させ、なんと、ハービー・ハンコック、セシル・マクヴィー、ロイ・ヘインズとなっています。

 

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1970年代に大活躍する事になるトリヴァーを自身のバンドに引き入れていた事は、評価すべきでしょうね。マクリーンは有能な新人を発掘する能力がありました。


コレは相当に攻めた編成で、マクリーンの演奏もかなりアグレッシブなものになってますね。


何しろ、ロイ・ヘインズのドラムの煽りがコレまでとは比べものにならないほど厳しいです。


特に素晴らしいのが、ハービー・ハンコックですね。


すでにハンコックはマイルズ・デイヴィスクインテットのメンバーですが、ここでのハービーは驚くほどアグレッシブで、それでいて、全体の統率を見事に行っていて、フロントの2人が暴れ回るステージを見事に作り上げてます。


今更こんな事言うのもアレですが、ハンコックはやはり別次元のピアニストですね。


こう言う新主流派に近いサウンドの中で、オールドスクーラーとして、決して古びない演奏ができているマクリーンは、大変な努力家です。


テクニックが1950年よりも明らかに上がってますし、しかも彼の持ち味が薄まっている事もないです。


マクリーンはバッパーとしての自分を無理矢理変えるようなことはせずに、和解ミュージシャンから学べるものがないのかと常に模索していたんですね。


そんな激怒の60年代の頂点になるのではないのか?と思われるのが、『New and Old Gspel』と『Bout’ Soul』です。


前者には、驚くべきことに、オーネット・コールマンがトランペットで参加しています。


タイトルからわかるように、当時の革新と伝統をLPのA面、B面に表現してみたと言うトータル・コンセプト作品でして、ドン・チェリーの『コンプリート・コミュニオン』という、同じブルーノート作品と対をなす作品であると思います。


オーネットは、いわゆるバップ的な技術を踏まえたトランペットは一切吹かず、かと言って、気合入りまくりのフリージャズを展開するのではなく、軽やかに、マクリーンの作り出すシリアスな世界に絡んでいて、予想以上に音楽的にはマッチしていることに驚きますね。

 

思えば、オーネットのアルトは、軽やかでしなやかな演奏であるので、特別トランペットが変わったわけではないのでした。


3曲すべてオーネットの作曲であり、マクリーンは単にフリージャズにちょっと関心があって、ゲスト的にオーネットを入れてみました。という事ではなく、オーネットの音楽への共感があって事であるのがわかります。


よく考えると、マクリーンとオーネットはそんなに年齢違わないんで(それぞれ、1931年、1930年生まれ)、同年代のジャズミュージシャンのやっている、しかも、新しいムーブメントに興味関心を持つのはごくごく普通の事です。


「シリアスなバップ」を展開するマクリーンとそれを嗜めるような軽やかなオーネットのトランペットの対比、メドリ形式のハードな演奏とゴスペルを取り入れたバップの対比が面白く、ハードバップのマクリーンしか聴いた事のない人にこそ聴いてもらいたい意欲作です。


オーネットがぶっ飛んでいるのではなく、むしろ、緩衝材のような役割になっているのが、面白いですね。パプリック・イメージと違っています。


『’Bout Soul』は、一曲目はバーバラ・スコットのナレーションがついているのですが、ドラムに、ジョン・コルトレインのグループにいた、ラシッド・アリを加えての演奏で、最もマクリーンの演奏がフリーに接近した演奏でして、いきなりコレを聴いたら、マクリーンだと思うわからないかもしれません。


このアルバムが録音された1967年は、コルトレインが病死した年であり、彼の死からそれほど経ってないときの録音なんですね、コレ。

 

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1950年代には録音での共演が数多いコルトレインの死は大変な衝撃だったでしょう。


そこにワザワザ、ラシッド・アリを加えての演奏というのは、相当な意気込みといいいますか。

 

当時のアメリカのジャズのミュージシャンの置かれている状況がそれほど伝わってこない時代ですので、このアルバムをいきなり聴いたジャズファンは戸惑ったと思いますが、マクリーンはアフリカ系アメリカ人としての、政治問題にかなり関心を持っていたんですね。


とはいえ、マクリーンは根っからゴリゴリのフリージャズの人ではありませんから、コルトレインに接近しつつも、「イッてしまっている世界」には、向かいません。


この後、マクリーンは演奏活動よりも、教育活動に重きを置くようになるのですが、最後まであの魅惑的なアルトの音色は変わる事がなかったですね。

 

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