Omer Avital『New Song』(Motéma)
personnel;
Avishai Cohen(tp), Joel Frahm(ts),
Yonathan Avishai(p), Omer Abital(b),
Daniel Freedman(drms)
recorded at Sequenza Studio, Montreuil, France ,July 2&3, 2013
コレは現在ではよく知られている事ですが、アメリカのジャズで活躍している「白人ジャズメン」と呼ばれる人の多くが、実はまだユダヤ系アメリカ人で事はよく知られている事です。
有名な人を挙げると、ベニー・グッドマン、ポール・デズモンド、リー・コニッツ、スタン・ゲッツ、スティーヴ・レイシー、デイヴ・リーブマン、スティーヴ・グロスマン、ランディ・ブレッカー、マイケル・ブレッカー、ジョン・ゾーン、デイヴ・ダグラス、グレッグ・コーエン、ジョーイ・バロン、ユリ・ケインなどなど、やはり結構な数がいます。
しかし、近年は、イスラエル出身のジャズミュージシャンがアメリカを拠点として活躍し、とても優れたアルバムを出していますね。
最初に私の耳に入ってきたのが、なんといっても、トランペッターのアヴィシャイ・コーエンです。
ジャズ界きってのヒゲをたくわえる、アヴィシャイ・コーエン。
「フレッシュ・サウンド・ニュー・タレント・シリーズ」から出た、『The Trumpet Player』は、なんと、トランペット、ベイス、ドラムズという、とんでもない編成で(テナーが3曲のみゲスト参加)、その驚異的な演奏で、イスラエルからとんでもない逸材が出てきたと思っていたのですが、それから、ベイシストのアヴィシャイ・コーエン(全くの別人です。同じくイスラエル出身でアメリカを拠点としてます)など、次から次へと決して人口の多い国ではない(2023年時点で約929万人)、特に周辺がジャズが盛んであるとも言えない国から、陸続と優れたジャズミュージシャンが出現してきました。
本作はそんなアルバムの1枚で、ベイシストのオメル・アヴィタル(アヴィタルは、父親がモロッコ系、母親がイエメン系だそうです)の作編曲能力の素晴らしさが大いに発揮された作品です。
「ユダヤ国家」として知られるイスラエルですが、実はアラブ系の人が結構住んでいる事実を見逃す事はできません。
正直、このアルバムを購入した動機は、やはり、トランペットのアヴィシャイが聴きたくて買ったんですけども、このアルバムの聴きどころは、まずは、ジョエル・フラムのテナーですね。
ジョエル・フラム。もうスッカリおじさんになってしまいましたね。
アヴィシャイの『The Trumpet Player』にゲスト参加していた時は、それほど印象に残りませんでしたが、ここでの彼は実に味のあるベテランに成長していて、決して派手さはありませんが、実にいいソロを取っています。
大変な努力の人です。
コレに対するアヴィシャイは、まるでアート・ファーマーを思わせるような端正な演奏に終始し、あたかもジョエル・フラムをうまく引き立てる事に徹しているかのようです。
2人とも圧倒的なソロで聴き手をノックアウトするような演奏は敢えて避け、オメル・アヴィタルの作る世界を具現化する事に貢献していると思います。
さて、そのアヴィタルですが、彼もベイスプレイで聴き手を圧倒する事はなく、完全に黒子に徹していますね。
彼の貢献は演奏以上に、アレンジに出ていると思います。
それは、ドラムの演奏です。
ダニエル・フリードマンのドラムの演奏は、およそジャズの一般的な奏法を敢えて用いていません。
コレは、アヴィタルがフリードマンに「このように叩いて欲しい」と指示を出しているものと思います。
アヴィタルは、アメリカに渡って演奏活動をしてから、一度、イスラエルに戻って、改めて音楽を学んでいるんですね。
その結果、できたのがこのアルバムなんです。
恐らくは、自身のルーツである、モロッコなどのアラブ世界の音楽を研究していたのではないでしょうか。
それは、ジャズとは相性がいいとは思えないくらい、ベタなメロディを多用した作曲、そして、アフリカのポップスに見られるようなドラミングに顕著に表れていますね。
こういうものの先駆が、ECMの諸作なのでしょうけども、アヴィタルたちはもっとポップな形で提示しているのが、やはり新しいです。
それはテーマとアドリブに著しい落差をつけないように演奏している点にも出ています。
このように、イスラエルの文化は多様性を大切にしている事がわかるのですが、なぜ、ガザ地区への残酷な仕打ちを永年にわたって行い続けているのか、理解に苦しみます。
閑話休題。
本作は、イスラエルのジャズの水準の高さを証明するものであり、ジャズ初心者にも長年聴き続けている方にもオススメできるポップな快作です。