mclean-chanceの「Love Cry」

はてなダイアリーで長年書いてきたブログを移籍させました。生暖かく見守りくださいませ。

キース・ジャレットはこの辺りから聴いてみてはいかがでしょうか?

Gary Burton & Keith JarrettGary Burton & Keith Jarrett』(Atlantic)

 

 

personnel;

Gary Burton(vib), Keith Jarrett(p, el-p, ss),

Sam Brown(g),

Steve Swallow(el-b), Bill Goodwin(drms)

 


recorded at A&R studios, New York in July 23, 1970

 


キース・ジャレットという人は、知名度がものすごく、「スタンダード・トリオ」と呼ばれる録音が膨大にあるので、初心者が手を出しやすいジャズメンだと思うのですが、悪いことは言いませんから、ジャズ初心者はスタンダード・トリオから聴くのはやめた方がよいです。

 

彼のトリオは実はとても難しいです。



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今やギャリー・ピーコックは亡くなり、キースも病気のため、演奏ができなくなってしまいましたが、ピアノ・トリオの一つの極点である事は今でも変わりません。

 

 

それは彼がこれまでに培ってきたありとあらゆるピアノのほとんどがこのトリオに込められていて、つまり、彼の多様で多彩な活動がこのトリオをキッカケにピタリと止まったのは、ソロ以外は全部ここでやっているという意味があるからなんです。


よって、スタンダード・トリオは彼が60-70年代までに培ってきたいろいろな活動を一通り聴いてからでないと、よくわかりません。


実際、私もスタンダード・トリオを聴いた時の掴みどころのなさたるや(笑)。


やっている事があまりにも高度すぎて、ジャズのリテラシーが相当低かった私には全くもってお手上げでした。


やはり、ある程度、彼のアルバムを聴いていって初めて、「なるほど、そういう事だったのか!」とリクツではなく、ちゃんとカラダで納得できるには、時間がかかりました。


キースというのは、なかなかにクセの強いピアニストでありまして、実は言うほど万人向けではないです。

 

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実際、キースは身を捩らせ、唸り声を上げて演奏してます。

 


彼の持つメロディ感覚の耽溺感と、コレに伴って出させる、相当デカい彼の唸り声、誰にも予測不能な謎のメロディ展開は、拒否反応が出る人が出てきても不思議ではないです。


日本で、スタンダード・トリオのライヴがあると、お客さんがたくさん入ってましたけども、ホントに皆さん楽しいのですか?と疑いの目を向けたくなりましすが、それは余談として、そんな曲者のキースにも、入りやすい入門アルバムがいくつかあり、それが本作なのです。


タイトルからわかるように、実質的なリーダーはヴィヴラフォン奏者のギャリー・バートンでして、彼の音楽がまずはメインにあります。

 

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バークリー音楽大学学長まで務めるギャリー・バートンは、ジャズにおける「アメリカーナ」のパイオニアの一人と言ってよいと思います。

 


キースはここではギャリー・バートンの曲想に合わせているわけですけども、この2人は実は資質が重なっておりまして、一般的なイメージ以上に相性がよいです。


というのも、初期のキースのピアノはカントリーやフォーク、ソウル、ロックの影響がものすごく濃厚で、それこそ、ボブ・ディランザ・バンドジョニ・ミッチェルジェームス・テイラーあたりが好きな人にはとてもピンとくるような親しみやすい、メロディを弾いているんです。


それは、ギャリー・バートンにもそのまんまあてまるんですから、2人の共演はとてもピッタリくるんですね。


大都会の夜の音楽であるジャズが、彼らが演奏すると、アメリカの雄大な大平原に溶け込んでいくような、それこそ朝日が似合う音楽に変貌してしまいます。


当時、こういうスタンスのジャズはほとんどなかったので、アルバムが出た時はあまり注目されなかったと思いますけども、ほどなく、ECMという、「アンチ都会、アンチアメリカ」を標榜するドイツのレーベルが出現し、ここにキースやバートンは合流する事になるのですから、本作の意義は現在から考えるととても多いと思います。


とはいえ、そんな歴史的意義など考えなくても、このアルバムが時入門者にもある程度聴き込んだ人にも感銘を与える、いわば、隠れ名盤となっている点こそが更に重要です。


ここでのキースはすでにソロを取ると没入的ではあるのですが(それは彼の個性なので仕方がないです)、コンパクトにまとまっているのと、非常にソウルフルなのが好ましいです。


時にソプラノサックスを演奏しているのですが、コレがまたなかなかいい味を出していると思います。


キースはどうも苦手で。という方もコレを聴くとかなり見直すのではないでしょうか。


この元祖アメリカーナジャズの先駆けとも言える本作は、キース入門編としてもオススメできる逸品です。

 

 

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カーリー・サイモンのライフワーク、第二作目!

Carly Simon『My Romance』(Arista)

 

 

Personnel; 各人gooleで調べるように!

 

recorded at Power Stasion, New York, 1990?

 

 


1981年の『Torch』から9年後、レーベルがアリスタに変わり、またしてもジャズアルバムを出しました。


今度は一部で参加していたマーティ・ペイチがプロデュース、指揮、アレンジをすべて行い(共同プロデュースはフランク・フィリパッティ、副プロデュース、アレンジは、マイケル・コサリン)、フュージョン勢力はマイケル・ブレッカースティーヴ・ガッドのみとなり(マイケル・ブレッカーが残留しましたが、すでにジャズ界で本格的に評価され始めているので、もはやこの時点で彼フュージョンと見なすことはできないでしょう)、今回は目新しさで勝負していない事がわかります。


今回も「What Has She Got」のみサイモンの曲で、今回はタイトル曲を含めてリチャード・ロジャースの作曲がとても多く、12曲中6 曲もあり、さしずめ、彼の作品集的な意味合いがあります。


サイモンの歌唱の基本は前回と大きく違わず、素直で真っ直ぐな歌い方だと思いますが、前回よりも明らかに歌の深みが違います。


サウンドの狙いどころもよく練られていて、サイモンの歌を見事に引き立てています。


彼女のジャズへの挑戦は決して、単なる興味本位のようなものではなく、もはや、ライフワークとなりましたね。


アート・ペパーやメル・トーメとの仕事で有名なマーティ・ペイチは、ネルソン・リドルほどの知名度はありませんが、大変な実力者であり、サイモンの素直でウソのないヴォーカルを見事に盛り立てます。

 

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マーティ・ペイチとメル・トーメ

 


本作は、リンダ・ロンシュタット『For Sentimenl Reasons』と曲目が複数被っており(「My Funny Valentine 」、「Little Girl Blue」、「Bewtched」)恐らくは意図なものと思われます。

 

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ネルソン・リドル三部作の第3作目にしてリドルの遺作となった、『For Sentimental Reasons』。

 


しかも、驚くべきことに、本作とロンシュタット『For The Sentimental Resons』のビルボードポップチャートの最高位がともに46位と同じであるのです!


この2作を聴き比べるのもまた楽しいと思います。

 

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リンダ・ロンシュタットをライバル視していたのでしょうね。それはさておき、コレは傑作です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エリントンすごいぜ!vol.12(再)のお知らせです!

エリントンすごいぜ!vol.12(再)銀座鉄道AAAで行こう 2021: A Space Odyssey 

 

※注意!東京都のCovid-19 の感染者増大を鑑みまして、9月への日程の変更を現時点で判断させていただきました。誠に申し訳ございません! 9/26となります! 下記の日程も変更となっておりますので、ご確認ください。

 

 

東京都ではCovid-19 が収束に向かう事もなく、残念ながら4月の開催は不可能となってしまいました。

 

本来、4月に行う内容を、9月に再び行う事といたします。

 

野田努の大著『ブラック・マシン・ミュージック』のテーゼである、「あらゆる黒人音楽は宇宙に向かわざるを得ない」は果たして黒人音楽の「始祖の巨人」の一人である、デューク・エリントンにも当てはまるのか?という事が今回の試論です。

 

あくまでも試論ですので、あまりホンキにしないでね(笑)

 

またしても開催が難しい状況でしたら、早めに延期をブログに公開します。

 

本イベントを、細田成嗣編著『AA 50年後のアルバート・アイラー』に捧げます。

 

エリントンすごいぜ!vol.12(再)

2021.926夜学バーbrat

台東区上野2-4-3 池之端すきやビル3F

JR御徒町駅東京メトロ上野広小路駅湯島駅など

http://ozjacky.o.oo7.jp/brat/

open 13:30

start 14:00-16:30

料金 2 drinks + 800yen



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カーリー・サイモンのライフワークの第1作!

Carly Simon『Torch』(Werner Bros.)


Personnel;

Wikipediaにあるので各人調べるように(笑)


recorded at Power Station, New York, in 1981?

 

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若い頃はジェイムズ・テイラーと結婚していました。

 

カーリー・サイモンが本作を出して、結構なチャートアクションをしたというのは(ビルボードポップチャート最高50位)、ロック業界に小さくない衝撃を与えたと思います。


その証拠に、先日取り上げた、リンダ・ロンシュタットが巨匠、ネルソン・リドルと組んで3枚のアルバムを作り、こちらは更なる大ヒットとなりました。


本作はチャートアクションこそ、ロンシュタットほどではありませんが、内容的には全く甲乙つけ難い内容であり、彼女の代表作の一つと言ってもよいと思います。


ロンシュタットはネルソン・リドルの指揮、アレンジによるフルオケでしたが、こちらは、モダンジャズフュージョンのミュージシャンを多く起用し、指揮者として、ドン・セベスキー、マーティ・ペイチというコレまた凄腕を起用し、全体のプロデュースとアレンジはマイク・マイニエリが行うという、何とも贅沢な作りです。

 

ジャズのスタンダード曲を歌うというコンセプトですが、カーリー・サイモンの自作曲「From The Heart」を取り上げたり、「Blue of Blue」、「What Shall Do with The Child」の歌詞の補作を行うなどしており、そこに既に自己主張があります。


また、ホーギー・カーマイケルや、デューク・エリントン、リチャード・ロージャス&ローレンツ・ハートのような、まさに大スタンダード曲の中にランディ・ウェストンの曲を入れたり、スティーヴン・ソンドハイムの当時の新作「Not A Day Goes By」を取り上げたりと、かなり選曲も大胆です。


リンダ・ロンシュタットの三部作はヴォーカリスとして作り上げたアルバムですが、こちらはよりアーティスティックに作られているのが特徴で、なによりもソリストデイヴィッド・サンボーンフィル・ウッズ、ブレッカー兄弟という個性的なミュージシャンが参加しており、そこが聴きどころになっているのも楽しいです。


ダイアナ・クラールが2014年に発表した『Wallflower』は、デイヴィッド・フォスターをプロデューサーに起用し、ジム・ケルトナーやディーン・パークス、グレアム・ナッシュ、スティーヴン・スティルスをゲストに招き、なんとロックの名曲を歌うという、大変ユニークな傑作でしたが、むしろ、コレと好対照なのかもしれません。

 

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カナダ出身のダイアナ・クラールの旦那さんは、なんと、エルヴィス・コステロ

 


本作はご覧になってわかるように、超がつくハイバジェットなアルバムですけども(笑)、当のカーリー・サイモンのヴォーカルはいつもの全く肩に力の入らない、実に自然体な歌い方であり、特にジャズに挑戦している事への気合いみたいな事が感じられないのがとてもよいですね。

 

「Hurt」における、まっすぐな熱唱は、全体の白眉でしょう。

 

マイケル・ブレッカーのテナーソロも大変な熱演です。


よく考えてみると、カーリー・サイモンはニューヨーク生まれのニューヨーク育ちですから、ジャズとミュージカルは身近な存在なのであって、むしろ、これは挑戦というよりも、子どもの頃から親しんできた音楽に取り組んでいるという事なのかもしれません。


しかも、コレは単なる企画モノではなく、その後の彼女のライフワークとなりまして、1990年『My Romance』、2005年『Moonlight Serenade』とアルバムを出し続けているんですね。


ロックという音楽もまた様々な方法でルーツを掘り下げ、表現を更に深めていった結果、それが彼女にはジャズという形で結実していったのは実に面白い事だと思います。

 

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ネルソン・リドル三部作(シナトラじゃないよ)!

Linda Ronstadt with Nelson Riddle & His Orchestra

『What’s New』『Lush Life

『For Sentimental Reasons』 (Asylum)

 

 

Personnel;

多すぎるため、すべて割愛(笑)


Recorded at The Complex, Los Angeles, in June 30, 1982-March 4, 1983(What’s New)

August 24, 1984-October 5, 1984(Lush Life)

1985-86(For Sentimental Reasons)

 

 

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若き日のリンダ・ロンシュタット現在はパーキンソン病を患っており、事実上引退状態です。

 


リンダ・ロンシュタットと名アレンジャー、指揮者であった、ネルソン・リドルが1980年代に、突如、3枚のジャズアルバムを作成しました。


正確にいうと、ネルソン・リドルは3作目の制作途中の1985年10月6日に亡くなってしまい、残りの三曲(アルバムの7-9曲)の録音はテリー・ウッドソンが指揮してします。


つまり、この3部作はネルソン・リドルの遺作となってしまいました。

 

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ネルソン・リドルといえば、キャピトル時代のシナトラとの仕事が重要です。キャピトルはロックのレーベルではなかったんですね。

 


ロックファンがこのアルバムをどのように受けとめたのかは寡聞にして知りませんが、セールスはジャズアルバムとして考えると驚異的なセールスを上げました。


何しろ3作ともにビルボードBest100にチャートインどころか、第一作『What’s New』は最高位第3位です。


恐らくは普段ロックを聴いていないような層にもアピールした結果なのでしょう。


ジャズというものの、アメリカの受け止め方が海外に住んでいるとかなり違っているのを痛感しますね。


リンダ・ロンシュタットは別に「ジャズに挑む」みたいな姿勢でこの三部作を作るというよりも、アメリカン・クラシックスに改めて挑んだ。という気持ちなのでしょう。


似ているとすると、美空ひばり弘田三枝子がジャズアルバムを出したような感じに近いのだと思います。

 

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なんと、ネルソン・リドル・オーケストラをバックにジャズを歌うというアルバムがあるのです!

 

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1966年のニューポートジャズ祭に参加(!)直後、ニューヨークで録音された、弘田三枝子のジャズアルバム。

 

 

ロックやニューミュージックを中心に音楽を聴いているとつい見逃してしまいますが、アメリカのポピュラーミュージックや戦前戦後の流行歌、歌謡曲のバックを演奏している人々の多くは、ジャズミュージシャンが多かったんですね。


原信夫や前田憲男は歌謡曲の世界で活躍するしてますけども、2人ともジャズミュージシャンです。

 

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ジャズは日本のポピュラー音楽の背骨でした。

 


お笑いの世界での功績が大きすぎてつい忘れてしまいますけども、クレイジーキャッツもジャズコンボですね。


植木等のあの粋なヴォーカルはジャズで身につけたものです。

 

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ハナ肇クレイジーキャッツ

 


戦前ですと多くの流行歌を生み出した服部良一がまさにそうでしたし、その息子の服部克久も戦後日本を代表するアレンジャーでした(2020年に惜しくもなくなりました)。

 

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服部良一、克久親子が日本のポピュラー音楽に遺した功績は余りにも絶大です。

 


コレはアメリカでも事情は同じで(というか、アメリカの強い影響で日本もそうだったんですけどもう)、フランク・シナトラの最初の黄金期であるキャピトル時代は、ネルソン・リドルとのコンビによって生み出されました。


シナトラはポップスシンガーですが、非常にジャズのテイストを持っている人で、その境界線がとても曖昧です。

 

ウェストコーストのロックシンガーの代表格であったリンダ・ロンシュタットが改めて自身の足元にあった、ポップス・クラシックの世界を見直した時、白羽の矢が当たったのが、すでに大御所であったネルソン・リドルでした。


このアルバムが制作された詳しい舞台裏には特に興味はありませんが、このアルバムの魅力あるのものにしているのは、リンダが別段ジャズヴォーカルに寄せて歌っていない事ですね。


それをやってしまうと、恐らくですが、ウソ臭くなるのが目には見えてます。


ただ、誠実にジャズのスタンダードをいつものように歌っている事が最大の成功要因です。


それが奇しくもジャズヴォーカルというものの領域を広げる結果となった。という事が素晴らしいのだと思います。


巨匠ネルソン・リドルの仕事は悪かろうはずなとなく、聴き手を1950年代のアメリカにそのまま誘ってしまいます。


しかし、そこにリンダのヴォーカルが乗っかってくるので、単なるノスタルジーやレトロ趣味になっていないところが見事です。


現在、ジャズが改めて注目され、続々と新しいミュージシャンが輩出されますが、これらの動きの中で注目されるのは、意外にもヴォーカルの存在です。


それは必ずしも従来のような歌だけではなく、ラップであったり、ヴォイスと呼ぶべきものである事も多いわけですが、ヴォーカルを入れる事でジャズという、ある意味、テクスチャが高度化しすぎて、身動きが取れなくなってしまっているジャンルに風通しをよくしているのではないかと思うのです。


本作はロックスターがフルオケを起用してスタンダードを歌う。という、ある意味でニッチなところを突いたら見事に大当たりした。という事ではあると思うんですけども、その射程は意外にも21世紀のジャズの変革まで射抜いてしまっているような気がするんですね。


グレゴリー・ポーターがインタビューでナット・キング・コールへの深い愛を語っていて、それは実際に作品集という形に結実しましたが、この原形は案外この三部作にあるのではと思ったります。

 

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グレゴリー・ポーターによるナット・キング・コール作品集。もう少し機が熟してから出すべきだった気はします。

 


全作とも甲乙つけがたく、すべて揃える事をオススメします。

 

残念ながら、入手が次第に難しくなってきているので、お急ぎを。


この三部作は、『Round Midnight』という形でコンピレーションになって発売されて、大変便利だったのですが、現在は廃盤で入手困難です。

 

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不在でも存在し続けるマイルス!

Al Foster『Mixed Roots』(columbia)

 

 

personnel;

Micheal Brecker(ts, ss),

Bob Mintzer(ss), Sam Morrison(ss),

Jim Clouse(as,fl),

Paul Metzke(g),

Kikuchi Masabumi(el-p,org,p),

Teo Masero(el-p),

Jeff Berlin(el-b), T.M. Stevens(el-b),

Ron McClure(b),

Al Foster(drms)

 


recorded at CBS 30th Studios, Manhattan, New York, 1977

 

 

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今なお現役で活躍する、アル・フォスター。ドラムセットが個性的な人でもあります。

 

 

残念ながら、録音の詳しいデータが記載されておりませんが、パーソネルを見る限り。セッションによってメンバーが変わっているので、結構な日数をかけ、コロンビアの名門スタジオ、「30番通りスタジオ」で録音しているものと思います。


アル・フォスターのキャリアで最初に脚光を浴びることになったものは、なんといっても、70年代の、いわゆる「エレクトリック期マイルス」のメンバーとして起用された事ですね。

 

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帝王マイルスのズル休みを前後して参加したミュージシャンはアル・フォスターだけです。

 


1975–80年にマイルスの健康上の問題を理由とした長期休業(実のところの理由は本人も『よくわからない』と言ってますが)の後、突然復帰した際も、フォスターはまたしてもマイルスに招集されてますけども(レギュラーメンバーとして1985何まで在籍)、本作はそのマイルスが隠遁生活の頃に録音された作品で、アル・フォスターの初リーダーアルバムです。


マイルスが事実上隠遁して、アルバムを作成しようとしないので、プロデューサーであるテオ・マセロはコロンビアから「マイルスが仕事しないのなら、他のヤツをリーダーにしてアルバム作れ!激おこ!」と言われたのかどうか知りませんが(笑)、アル・フォスターに声をかけ、相当なメンツを揃えたアルバムが作成されました。

 

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エレクトリック・マイルス期のアルバム製作に多大な貢献をした、テオ・マセロ。


セッションによってメンバーが変わりますけども、核となっているメンバーによって音楽性が決まっておりまして、マイケル・ブレッカーがテナーとソプラノで参加し、ものすごいソロを取っています。

 

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2007年に惜しくも亡くなった、当代きってのテクニシャンであった、マイケル・ブレッカー


他にも3名のサックス、フルートが参加していますが、ブレッカーのソロが群を抜いて素晴らしいです。


当時のブレッカーは、どちらかというと、優秀なスタジオ・ミュージシャンであり、兄のランディとともにフュージョンの大スター。という評価するだったと思いますが、ここでの彼のサックスは、とにかく吹きまくり放題でして、ジャズプレイヤーとして全開であります。

 

ある意味、本作の事実上の主役は彼と言ってよいと思います。


そんなにソロを取っているわけではないんですが、サイドギターとしてサウンドを決定づけている、ポール・メッケの粘り気のあるギターは素晴らしいです。

 

また、当時、ギル・エヴァンス・オーケストラのメンバーとして大活躍していた菊地雅章は、決して派手ではありませんが、フェンダーローズやオルガンなどのキーボード楽器を多彩に駆使してフロントを的確にサポートしつつ、いざとなると素晴らしいピアノソロを「Pauletta」であの唸り声とともに捻り出しています。

 

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菊地雅章の出現はまさに驚異的でした。

 


リーダーのアル・フォスターのドラム、エレクトリック・ギターとベイスによって作られる、粘っこくファンキーなサウンドを実にまとめ上げ、ブレッカーの圧倒なソロを支えます。


要するに、このアルバム、かなりファンク、ロック寄りの熱血サウンドのジャズでして、そういう意味では1970年代のマイルスサウンドの延長線上にあり、テオもマイルス不在の穴を埋めるためにプロデューサーとして参加し、恐らくはアルバムの方向性やさんがメンバーも彼によるものだったのかもしれません。


というか、テオはこのメンバーでマイルスとアルバムを作りたかったのかもしれません。


「王の不在」は一方ではハービー・ハンコックウェイン・ショーターら、1960年代のクインテットのメンバーが中心となって結成された「VSOP」の結成を促しましたが、1970年代のメンバーにマイルスの親友であったギル・エヴァンするの片腕的存在であった菊地雅章も協力し、このアル・フォスターの初リーダー作(しかして内実はマイケル・ブレッカーのアルバムですが)が作られた事は、意外と知られていません。


アル・フォスターは1970-80年代のマイルスのバンドのメンバーでありながら、実はこういう音楽があまり好きではなかったらしいのです。


しかし、「あのマイルスと共演できる」という事を最優先して、彼の意図を尊重して、エレクトリックでファンキーなサウンドに貢献していました。


自身のソロアルバムならば、ドラムソロをどこかに盛大に入れてもよいようなものなのに、いいところの大半はマイケル・ブレッカーにやらせているというのは、そういう事情もあるのかもしれません。


私個人は、ジャズアルバムで盛大にドラムソロが入っているのは、そんなによいと思った事がないので(ライヴでやる分には楽しいのですけども)、この判断は結果として正しいと思いますけども。

 

こういう事情もあり、素晴らしい内容であったにも関わらず、リーダーであるアル・フォスターがあまりやりたくない仕事であった事もあってか、CDの時代になってもあまり積極的に市場に出回っていなかった事であまり知られてこなかったようです。


本人の気持ちがどうあれ、内容は大変素晴らしいですし、アル・フォスターの演奏は私にはこういうサウンドにとても向いていると思うので、ジャズファンとしては大いに推薦したいと思います。


最後の曲に数少ないテオ・マセロのフェンダーローズの演奏が入っているのも注目すべきでしょう。

 

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本作もマイルスを担ぎ出そうとする意図があったアルバムなのかもしれません。

 

 

 

 

 

ジャズヴォーカルの魅力がつまった傑作ライヴアルバム!

Mel Tormé and Friends『Recorded Live at Marty’s, New York City』(Finesse)

 


Personnel;

Mel Tormé(vo),

Mike Renzie (p),

Rufus Reid or Jay Leonhart(b),

Donny Osborn(drms)


guests;

Janis Ian(vo),

Cy Coleman(vo),

Jonathan Schwartz(vo),

Gerry Mulligan(bs)


recorded at Marty’s, New York in June and August, 1981

 

 

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晩年近くまで現役だった、メル・トーメ

 

ジャズファンの中でも、男性ヴォーカルを聴いている人というのは、正直少ないでしょう。


かくいう私もそんなに持ってないんですが(笑)、そんな私でも何枚かは持っているのがメル・トーメです。


本作はメル・トーメの実力が遺憾なく発揮された、ライヴアルバムの傑作です。


マイクがハウったり、トーメの声が割れてしまったりと、録音が決してよいものとは言えませんが、そのほとんど手を加えていないが故の生々しさがそのまんま入っていて、ものすごく臨場感が伝わってきます。


トーメが歌詞を変えて、笑いを取るところがあって、観客の笑い声が思い切り入ってたりもします。

 

ただ、トーメがいつものようにライヴで歌うのを記録したら、それがとてつもない名盤であった。というのが、彼の歌い手としてのホントの凄さを思わざるを得ません。


若い頃から抜群であったセンス満点のスイング感は衰えるどころかますます磨きがかかり、興に乗ったスキャットが演奏全体を引っ張り回る様は見事という他ありませんね。


LP2枚組にわたる本作は面ごとに趣向が凝らされ、ジャニス・イアンと言った、意外なゲストも参加し、決して飽きさせることのない作りになっているのも嬉しいです。

 

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ジャニス・イアンをゲストに迎え、彼女の曲をデュエットで歌います。

 

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ジェリー・マリガンは、若い頃から古いものと新しいものを結びつける事に能力を発揮する人でした。


曲もビリー・ジョエルジャニス・イアンアントニオ・カルロス・ジョビンを取り上げたりしてますね。


1980年代のメル・トーメなんて、正直、過去の人扱いだったと思いますけども、実はジャズシンガーとしては若い頃よりも遥かに深みが出ていて、人気というものを左右される事なく精進し続けていた事がハッキリとわかります。


この作品によって、トーメの再評価が高まったのか、アルバムが晩年に至るまでコンスタントに出るようになり、その至芸の数々を現在も聴くことができます。


オンデマンドのCD-Rやダウンロードでしか購入できないのが、なんともですが、意外と中古のLPが比較的安価に入手できるので、丹念に探してみるのも良いかと思います。

 

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