Paul Motian『Tribute』
personnel;
Carlos Ward(as),
Sam Brown(acoustic and electric guitar),
Paul Metzke(electric guitar),
Charlie Haden(b),
Paul Motian(drms, percs)
recorded at at Generation Sound Studios, New York City on May 1974
2011年にモーシャンは亡くなりますが、ジャス史的には彼の重要性は寧ろ増していると思います。
発売当時、このアルバムがジャズファンからどのように受け止められたのか、私には分かりませんけども、少なくとも、ビル・エヴァンズの大名盤『Waltz for Debby』を聴いていた人たちと、本作はほとんど何も結びついていないかもしれませんね。
しかし、ポール・モーシャンは、よくよく考えてみると、キース・ジャレットの初期のトリオのメンバーでありますし、そこから発展した、アメリカン・カルテットのメンバーなんですよね。
本作のベイシストは、チャーリー・ヘイデンであり、そう考えると、キースを抜いて出来上がった、「アメリカン・クインテット」とも言える作品です。
カルロス・ワードは、カーラ・ブレイやドン・チェリー、そして、アブドゥラー・イブラヒラムらとの共演のあるミュージシャンであり、しかも、アメリカン・カルテットにおけるデューイ・レッドマンと同じく、テクニシャンというよりも、「自分の声」を持つサックス奏者ですね。
1960年代はフリージャズでの活動が中心だった、カルロス・ワード。
そういう点でキースと似てます。
しかし、キースと大きく異なるのは、ギター2名入れている事です。
その1人は、アメリカン・カルテットの演奏でゲストとして招いている、サム・ブラウンですよね(『Gary Burton & Keith Jarrett』にも参加しています)。
サム・ブラウンは1977年に若くして亡くなっています。
このギターを加入させる事への執着は、実はモーシャンのリーダー作で一貫している事でして、ここから、ベン・モンダーやカート・ローゼルウィンケルという、現代のジャズギタリストが輩出していることからもわかります。
今や、現役最高峰のギタリストの1人となったローゼンウィンケルも、モーシャンのバンド出身なのです!
また、ジョー・ロヴァーノ、ビル・フリゼールとの変則トリオのアルバムを断続的に発表してもいます。
フリゼールの持つ浮遊感とモーシャンの音楽性は非常に親和性が高いです。
ですので、この少々変則的な編成は、実は思いつきなのではなく、彼がその後探究していくジャズ(と最早呼ぶべきなのか定かではないですけど)の初期の録音といえます。
それは、全5曲のうち、3曲がモーシャン自身の作曲である事からもわかります(残りはオーネット・コールマンとチャーリー・ヘイデン)。
モーシャンがどの時点から本作のような音楽を志向するようになったのかはよくわかりませんが、彼の周囲にいた、キース・ジャレット、チャーリー・ヘイデン、ドン・チェリー、カーラ・ブレイという人々を並べてみると、彼ら彼女らの志向する、現在、アメリカーナと言われる音楽の影響をかなり受けていた事は容易に想像がつきます(また、影響も与えたのだと想像されます)。
つまり、モーシャンは、「なんだかコッチの方が勢いがあるから行ってみよう」という安易な考えで飛びついたのではないのだと思います。
それは、本作での演奏が、キースとのカルテットの音楽とも同じ地平を持ちながらも、キースとはまた異なるサウンドを作っていきたい事の表明でもあったんでしょうね。
そのどこか全体を俯瞰したような浮遊感を持ったサウンドは、ビル・フリゼールやブライアン・ブレイドのバンド、「フェローシップ」の先駆にも思えます(フェローシップにもギタリストが2人いますね)。
ブライアン・ブレイドのバンド、「フェローシップ」が追及するサウンドの前提には、モーシャンやフリゼールがある事は間違いないでしょう。
そして、それは生涯にわたって追及する事となり、そこから多くの優れたミュージシャンを輩出する事にもなったという点は、非常に重要な事実だと思います。
その意味で、現代のジャズを考える上でも絶対に無視する事のできない作品です。