Mark Guiliana Jazz Quartet『Family First』(agate)
Personnel;
Jason Rigby(ts),
Shai Maestro(p),
Chris Morrissey(b),
Mark Guiliana(drms)
recorded at The Banker Studio, Brooklyn, NYC in 2015 ?
現役最高峰のドラマーの1人である、マーク・ジュリアナによる、ワンホーン・カルテットです。
ジュリアナなので、何か捻りでもあるのでは?とか、勘ぐりたくなるわけですけども、驚くほど真っ当なモダンジャズである事にまずは驚いてしまいますが、彼の「ジャズ」という基準は、どうやら、1960年代のブルーノートに在籍していた、新主流と呼ばれるアルバムなのだなあ。というのは、聴きていて実にわかります。
ボンヤリ聴いていると、ホントに当時の録音と間違えてしまうかもしれません。
何しろ、テナーサックスのジェイソン・リグビーがコルトレインとジョー・ヘンダーソンにものすごく似ているので、余計にそう思えます。
ジェイソン・リグビー。
しかし、ディテールをよく聴くと、1960年代のジャズとは全く別モノでして、持っているテクニックのイディオムが恐ろしく更新されていて、より緻密で繊細になっています。
それらは、決して派手ではないんですけども、ジャズを聴き込んで来たものには明らかに、「コイツらは何か違う!」とわからせるものがありますね。
こういう非常に微細な世界を表現するというのは、実に大変な事であり、それほどジャズを聴き込んでいない人には、その凄さがわかりにくいかもしれません。
普通にジャズやってるのでしょ?と表面上は見せておいて、現在の圧倒的なテクニックに裏打ちれた、敢えて血の滲む努力と根性を見せずに、涼しく、軽やかにやっているかのように見せるのは、相当な自信があっての事ですし、ワザワザ、現在に於いて、「Jazz Quartet」と名乗っているのは彼らの矜持そのものなのでしょうね。
ジュリアナのドラミングはもうどこがどうこうというものではなく、異次元の水準であって、現在におけるジャズというもののドラマーに求められる技術水準が明らかに変わってしまった。というものであり、かつてのような、エルヴィン・ジョーンズが素晴らしいとかフィリー・ジョーキレのあるドラムは衝撃的だ。みたいな、単にニューフェイスを見て喜んでいたような事ではない、とてつもないものを感じます。
敢えて言ってしまうと、トニー・ウィリアムズ以来のドラムの革新を生み出した人物と後に言われるのではないのか?とすら思え、コレに匹敵するのが、クリス・デイヴでしょう。
このジュリアナのドラミングに最も反応しているのが、シャイ・マエストロですね。
シャイは少し前まで、ベイシストのアヴィシャイ・コーエンのトリオのメンバーで、アヴィシャイの作曲する、一体何拍子なのか瞬時に聞き取る事が困難な曲を難なく弾きこなしていたようなピアニストで、私はブルーノート東京で演奏を見ましたが、とにかくたまげてしまいました。
そんな彼ですから、ジュリアナの、演奏を全部引っ張られるようなドラムが容赦なく煽り立てても、全く自分のペースを守って演奏しています。
ジュリアナ自身ももともとはアヴィシャイのバンドの一員であり、シャイと同じ時期に在籍していました。
テナーのジェイソン・リグビーの演奏は比較的オーソドックスで、コルトレインやジョー・ヘンダーソンが生み出した奏法はは今や、テクニックとして身につけられてしまっているという事に戦慄しますが、彼がオーソドックスに吹くので、ジュリアナのドラミングの特異性が際立つ演出になっているのではないかと思います。
敢えてこのように吹いているように私には思えます。
クリス・モリセイ。
かつてのジャズメンには、そういう選択肢はあまり考えられませんが、現在のジャズメンの多くは音大などで技術を習得していますから、バンドの構想に奏法を合わせるようなあり方がもう普通になっていますね。
現在のジャズで一番変わったのはリズムでして、その事にピアニストは適応できていますが、サックス奏者の多くが適応できていないのが実情でして、ジュリアナもその事を踏まえての当時の選択なのかもしれません。
アヴィシャイ・コーエン・トリオからアヴィシャイが抜け、そこにサックスとベイスを加えた、このグループは、今のところ、2作のアルバムが出てますが、デビュー作からこの驚異的なクオリティというのが、すごいですね。
コレは第二作目も聴かなくてはならないでしょう。